JAMA Network Open、2025年9月18日公開論文1)。
一般開業医(GP)は、生理学的メカニズムによる患者の症状の改善を期待していないにもかかわらず、治療を来なうことがある。このような治療を著者らは、「本質的プラセボ治療essentially placebo treatments」と呼んでいる。こうしたプラセボ治療は倫理的にも議論の余地があるが、実態は不明であり、研究によって実態を明らかにした。
調査は、オンライン質問票に回答した欧州20カ国およびイスラエルの現在開業しているGPを対象とし、2019年12月12日から2021年8月4日の間に調査が実施された。主要アウトカムは、基本的にプラセボ処方の割合であり、1週間あたりの割合と診察に占める割合で示された。
結果として、合計952人の開業医が回答した(745人中453人[61%]が女性、平均[SD]年齢は48.02[11.95]歳)。全体として、回答者818人中689人(84%)が、少なくとも1回は本質的にプラセボ治療を処方したことがあると回答した。
この結果から、基本的にプラセボ処方は診察の少数派であったが、それでもほとんどのGPで定期的に行われていた。このことは、本質的にプラセボ処方が集団レベルで一般的であることを示唆しており、これは患者とGPの関係にリスクをもたらし、患者に医学的リスクをもたらすと結論付けている。
また、本研究に対するコメント(Invited Commentary)で、この研究の意義の一つとして、「本質的プラセボ治療」という概念が「プラセボplacebo、純粋プラセボpure placebo」、「不純プラセボimpure placebo」という用語の混乱を避けていることを指摘している。すなわち、本質的プラセボ治療には、薬効評価で用いられる、(乳糖製剤のような)実際に薬効のない医薬品での治療だけでなく、有効成分はあるが、患者の現在の懸念事項の解決には役立たないもの(こちらが通常、「不純プラセボ」とよばれる)のすべてを含んでいる。
(坂巻コメント:この研究では、医師が本質的に生理学的(薬理学的)に患者に影響を及ぼすことがないと知っていてその治療を行っていることを「本質的プラセボ治療」と呼んでいる。一方、この本質的プラセボ治療と類似の概念に「低価値医療(low-value care:LVC)」がある。低価値医療とプラセボとの違いは、GPが、LVCは効果があると勘違いしていることであると思われる。いずれも、医療費の無駄につながることから、日本でも、LVCに加え、「本質的プラセボ治療」の実態についての調査があると面白い。参考:【論文】日本におけるプライマリ・ケア医による低価値医療の提供)
ニュースソース
- Fabian Wolters(Unit Health, Medical and Neuropsychology, Leiden University, Leiden, the Netherlands), et al. : Prescriptions of Essentially Placebo Treatments Among General Practitioners in 21 Countries.
JAMA Netw Open, Published Online: September 18, 2025 2025;8;(9):e2532672.
doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.32672 - Pekka Louhiala(Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland): Why Do Physicians Prescribe Treatments That Are Essentially Placebos?
JAMA Netw Open, Published Online: September 18, 2025
2025;8;(9):e2532678. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.32678