【論文】日本におけるプライマリ・ケア医による低価値医療の提供

JAMA Health Forum、2025年6月6日オンライン公開論文。日本のプライマリ・ケア診療所で使用されている電子カルテ・データベースを用い、プライマリ・ケア医の間で「低価値医療(low-value care:LVC)」の提供についての横断的分析。

著者らは、正味の臨床的利益をもたらさない医療サービスをLVCとしており、今回の論文では、5の投薬行為、3の診断または画像検査、2の処置からなる下記10のLVCサービスについて検討を行っている。データベースは、エムスリー株式会社が提供する「JAMDAS(Japan Medical Data Survey:日本臨床実態調査)」。2022年10月1日から2023年9月30日までの間に単独診療でプライマリ・ケア医を受診した成人患者(18歳以上)のデータを解析した。

結果の概要は以下の通り(論文の著者抄録):  1019人のプライマリ・ケア医(平均年齢56.4[10.2]歳、男性90.4%)が診療した患者2542 630人(平均年齢51.6[19.8]歳、女性58.2%)のうち、436 317件の低価値医療サービスが特定された(患者100人当たり17.2件)。 これらの低価値医療サービスの半数近くは10%の医師によって提供されていた。 患者の症例構成を考慮した結果、高齢の医師(60歳以上)は40歳未満の医師よりも患者100人当たり2.1人(95%CI、1.0-3.3人)多く低価値医療サービスを提供していた;内科認定医でない医師は総合内科認定医よりも患者100人当たり0.8人(95%CI、0.2-1.5)多かった;患者数の多い医師は少ない医師よりも100人当たり2.3人(95%信頼区間、1.5-3.2)多かった;西日本の医師は東日本の医師よりも100人当たり1.0人(95%信頼区間、0.5-1.5)多かった。

調査結果から、著者らは、「日本において価値の低い医療サービスが少数のプライマリ・ケア医に広く行き渡っており、高齢の医師や専門医資格を持たない医師が価値の低い医療を提供する可能性が高いことを示唆している。価値の低い医療を大量に提供している特定の少数の医師を対象とした政策介入は、すべての医師を一律に対象とする政策介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」と結論付ける。

 

プライマリ・ケアにおける低価値医療サービスの指標

  1. 急性上気道感染症(acute upper respiratory infection: AURIに対する去痰薬:AURIでの診療において、抗生物質が適切な新たな診断や慢性呼吸器疾患の併存診断がない場合のアセチルシステインまたはカルボシステインの処方
  2. AURIに対する抗生物質:AURIでの診療において、抗生物質が適切な新たな診断がない場合の経口抗生物質の処方
  3. AURIに対するコデイン:AURIでの診療において、コデインが適切な新たな診断がない場合のコデインの処方
  4. 腰痛に対するプレガバリン:線維筋痛症、糖尿病、帯状疱疹後神経痛、動脈硬化、椎間板障害、三叉神経痛、末梢神経障害の診断がない腰痛患者へのプレガバリンの処方
  5. 糖尿病性神経障害に対するビタミンB12:ビタミンB12欠乏症に関連する診断がない糖尿病性神経障害患者へのビタミンB12の処方
  6. 骨密度検査の短期再検査:年内に1回目のbone mineral density: BMD検査を受けた骨粗鬆症患者への2回目以降のBMD検査
  7. 甲状腺機能低下症に対するT3検査:甲状腺機能低下症の診断がある患者へのT3(総T3または遊離T3)の測定
  8. 不要なビタミンD検査:慢性腎疾患、カルシウム代謝異常、副甲状腺機能亢進症、ビタミンD欠乏症、PTH非依存性高カルシウム血症がない患者へのビタミンD検査
  9. 腰痛に対する注射:坐骨神経痛を示す診断がない腰痛患者への硬膜外(非留置)、ファセット、トリガーポイント注射
  10. 消化不良または便秘に対する不要な内視鏡検査:18-54歳の消化不良患者で、嚥下障害、貧血、体重減少、消化器癌の併存診断がない場合の内視鏡検査。便秘患者で同様の併存診断がない場合の大腸内視鏡検査

(坂巻コメント:確かにアセチルシステインやカルボシステインについては、不足が騒がれるほどの価値(効果)のある薬ではないが、それを提供している=「低価値」と決めつけているところが「上から目線」。
ある医療経済学者から頂いた情報では、この研究は、2010年頃から提唱されている「choosing wisely」の焼き直しとのこと。確かに、PubMedでもchoosing wiselyに関する先行研究が見つかり、メタアナリシス研究論文もある。それらを読む限り、choosing wiselyが医療費削減につながるとするエビデンスレベルは低いと考えられる。)

 

ニュースソース

Atsushi Miyawaki, MD, PhD1,2,3; John N. Mafi, MD, MPH4,5; Kazuhiro Abe, MD, PhD6; Alexandra Klomhaus, PhD4; Rei Goto, MD, PhD7; Kei Kitajima, MEng8; Daichi Sato, PhD8; Yusuke Tsugawa, MD, MPH, PhD4,9: Primary Care Physician Characteristics and Low-Value Care Provision in Japan.
JAMA Health Forum. 2025;6(6):e251430. doi:10.1001/jamahealthforum.2025.1430(オープンアクセス)
Author Affiliations:

  1. Public Health Research Group, Institute of Medicine, University of Tsukuba, Tsukuba, Ibaraki, Japan
  2. Department of Health Services Research, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
  3. Department of Clinical Epidemiology and Health Economics, School of Public Health, The University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan
  4. Division of General Internal Medicine and Health Services Research, David Geffen School of Medicine, University of California, Los Angeles
  5. RAND Corporation, Santa Monica, California
  6. Division of Data-Based Health Management, Health Innovation and Technology Center, Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Hokkaido, Japan
  7. Graduate School of Business Administration, Keio University, Yokohama, Kanagawa, Japan
  8. M3 Inc, Akasaka Intercity, Minato-ku, Tokyo, Japan
  9. Department of Health Policy and Management, Fielding School of Public Health, University of California, Los Angeles
2025年6月11日
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