NEJM、2025年2月1日公開記事。以下は論文概要(アウトカムベースの支払い契約については詳しめに抜粋した)。
Joe Biden前大統領が2022年10月に出した大統領令は、保健福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)にメディケア・メディケイド・イノベーションセンター(Center for Medicare and Medicaid Innovation:CMMI)に対し、メディケアおよびメディケイド加入者のために薬剤費を引き下げ、革新的な治療法へのアクセスを促進する支払い・提供モデルを開発・試験するよう指示することを命じた。 2023年2月、HHSはCMMIが検討可能な以下の3つのモデルを提案した(政権交代により、モデルの将来は不透明)。
- 高価なジェネリック医薬品の自己負担額を減らすモデル
- FDAから早期承認を受けた医薬品の確認試験の完了を早め、メディケアの支払いを調整するモデル
- 細胞・遺伝子治療アクセスモデル(CGTアクセスモデル:Cell and Gene Therapy Access Model、2024年8月に正式に発表)(参考:米国CMSが細胞・遺伝子治療アクセス研究計画書を公開:2024年6月29日公開)
このうちCGTアクセスモデルについては、メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services :CMS)と製薬メーカーは、価格、支払い合意構造、適格性、アウトカム指標を含む主要条件について交渉し、2024年12月4日に最終決定されている。
一方、2024年12月現在、FDAは41の細胞・遺伝子治療製品を承認しており、その価格は50万ドルから400万ドル以上である。 これらの価格には、治療管理に関連する医師や施設の費用は含まれていない。このうち、③のモデルの対象となった鎌状赤血球症(severe sickle cell disease:SCD)治療薬としてFDAが承認している遺伝子治療薬は2つあり、これらの治療薬の価格はそれぞれ220万ドルと310万ドルである。
アウトカムベースの支払い契約では、CMSはメーカーと値下げ価格(そのモデルで治療された患者の数によって変動する可能性のある数字)を交渉することができ、治療された患者が合意された結果を得た場合にのみその金額を支払うことになる(そうでなかった場合はリベートを受け取ることができる)。契約は、
- 特定の期間の後、CMSは治療がうまくいった場合は全額を支払い、うまくいかなかった場合は何も支払わないというような、単一の遅延支払いとして構成することができる。
- あるいは、一定期間ごとに、治療効果があればCMSが全額の一部を支払い、効果がなくなれば支払いを停止するような償却方式にすることもできる。
- 最終的には、CMSが治療時に交渉された価格全額を支払い、治療がうまくいかなかった場合にメーカーが一部または全額の払い戻し、または将来の治療購入に使用できる「クレジット」を提供する、アウトカムベースのリベートを含む契約も可能である。
CGTアクセスモデルは、患者の偏り(黒人に多い)、患者の多くがメディケイド加入者で、アウトカムデータも請求データから特定できるなど、合理的選択と言える。その一方で、CGTアクセスモデルが成功するには、契約の詳細をさらに公開すべきとしている。
(坂巻コメント:英国NICEも高額な細胞・遺伝子治療についてのカバーについてマネジトアクセススキームを導入している英国NICE、重症鎌状赤血球症に対する遺伝子治療を承認(2025年2月3日公開)。日本で鎌状赤血球症の遺伝子治療が承認されるかどうか不明だが、償還・価格設定についての議論が必要と思われる。)
ニュースソース
Joseph S. Ross(Section of General Internal Medicine, Department of Internal Medicine, Yale School of Medicine, New Haven):Cell and Gene Therapies — Improving Access and Outcomes for Medicare and Medicaid Beneficiaries.
England Journal of Medicine(NEJM) https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2412955?query=WB