2026年2月4日、上院公共サービス委員会は報告書『医薬品の安全保障―国家の優先課題』を発表した。政府(保健社会福祉省:DHSC)は報告書への回答を2か月以内に提出しなければならないとしている。
(レポートを読む限り、英国における医薬品不足対策は立ち遅れ部分が多いと感じられる。英国上院の提言力にも注目。)
レポート骨子(いずれもホームページの要約)
- 本レポートは、医薬品供給不足が国民の生命・健康に直結するにもかかわらず、英国では国家安全保障上の課題として十分に位置づけられていないと指摘している。医薬品の安定供給においては、英国政府および国民保健サービス(National Health Service:NHS)が中心的役割を担うべきであるが、現状では監督体制や全体調整が不十分であると結論づけている。
- 具体的には、政府は供給網の脆弱性に対して事前予防的に対応するのではなく、不足が顕在化してからの後追い対応に偏っている。また、医薬品不足やその対応策について、薬剤師や一般開業医(GP)といった現場の医療従事者への情報共有が不十分である点も問題視されている。
- さらに、保健・社会福祉省(Department of Health and Social Care)による医薬品在庫や重要医薬品リスクに対する統括的なリーダーシップが欠如しているとされる。2025年には、薬局従事者の73%が医薬品不足が患者の安全を脅かしていると回答しており、現場の危機感は極めて高い。
- 供給構造面では、NHSで使用される医薬品の有効成分(Active Pharmaceutical Ingredient:API)の多くが中国やインド、または単一供給源に依存しており、地政学的リスク、貿易摩擦、自然災害などによる影響を強く受けやすい状況にある。
- NHSで処方される医薬品の約80%はジェネリック医薬品であるが、英国国内で製造されているのはそのうち約25%にすぎず、残りは主に欧州やアジアで生産されている点も、供給脆弱性を高めていると分析している。
主な提言
- 医薬品供給の安全保障を国家安全保障の問題として正式に認識・位置づけることを政府に求めている。
- 医薬品不足や供給状況に関する情報を、GP、病院、地域薬局などの医療提供者とより効果的に共有する体制を構築し、現場が患者を支援できる実務的ツールを整備すべきだとしている。
- 医薬品供給を国家リスク登録(National Risk Register)に組み込み、大規模な医薬品やAPI供給停止を想定した**定期的な準備・訓練(preparedness exercises)**を実施する必要性を強調している。
- ガバナンス面では、医薬品供給レジリエンスを統括する十分な権限と地位を持つ責任者を任命し、省庁横断でデータ共有と優先順位付けを行う体制を整えることが不可欠とされる。
- 産業政策としては、NHS向けジェネリック医薬品およびAPIの英国国内製造を強化し、製薬産業と連携して不足を未然に防ぐ仕組みを構築すべきだと提言している。その際、調達や契約管理において「供給の安定性」を明確に重視するシグナルを業界に示すことが重要とされる。
- 政府は臨床的重要性と供給網の脆弱性に基づく「重要医薬品リスト(Critical Medicines List)」およびAPIリストを公表し、それを英国国内生産、備蓄対象、契約交渉の指針として活用すべきだと結論づけている。また、これら重要医薬品について、どのように供給レジリエンスを高めるのかを明示する計画策定が求められている。
ニュースソース
- UK Parliament: Lords Committee calls for proactive leadership to tackle medicines supply.
https://committees.parliament.uk/work/9311/medicines-security/news/211727/lords-committee-calls-for-proactive-leadership-to-tackle-medicines-supply/ - House of Lords: Medicine security is a national priority- How can the UK increase its medicine resilience?
https://ukparliament.shorthandstories.com/medicines-security-public-services-lords-report/index.html?utm_source=committees.parliament.uk&utm_medium=referral&utm_campaign=medicines-security-report&utm_content=launch-news-story
2026年2月10日