【論文】ドイツにおける予期せぬHIV曝露前予防薬不足

ドイツでは、2023年10月、テノホビルジソプロキシル/エムトリシタビン(disoproxil/emtricitabine:TDF/FTC)の供給不足に関する最初の報告が伝えられた。供給不足は、製造上の問題、サプライチェーンの混乱、ドイツの調達システムの構造的側面など、複数の要因によるものと見られ、さらに他の要因も関与している可能性があるとされる。その後状況は著しく悪化し、2024年1月25日、ドイツ医薬品法第79条(5) § 79 (5) of the German Medicines Actに基づき公式な供給不足が宣言され、薬局はより高価なブランド医薬品を調剤することが認められるなど、医薬品の調達と提供においてさらなる法的選択肢が開かれた。その後、関係者の共同努力と実施された措置の結果、供給不足は2024年春以降次第に緩和されたとされる。

一方、2019年9月以降、HIV感染の相当なリスクがある法定健康保険(statutory health insurance:SHI)加入者は、HIV曝露前予防(pre-exposure prophylaxis:PrEP)の保険適用を受ける権利を有している。PrEPの保険適用範囲には、カウンセリング、薬剤の継続的供給、およびHIV検査やリスクに基づく性感染症(STI)検査などの検査が含まれる。

論文は、この不足期間直後の供給不足が及ぼす影響を評価するため、PrEP使用者およびPrEPに関心を持つ個人を対象に、薬剤不足に伴う対処戦略、HIV予防策、性的行動、ストレスレベル等について、匿名オンライン調査が実施を実施した結果が報告されている。

論文の結論として、「PrEP使用における意図しない変更は、ユーザーの性行動適応能力を阻害し、HIV感染リスクを高めた可能性がある。最もリスクが高くPrEPへの依存度が高いユーザーは、より大きな心理的負担を経験した。PrEPの継続使用を確保し、未充足の需要に応えるためには、処方医の能力強化と並行したPrEP教育・普及活動の拡大が不可欠である。個別カウンセリングにより、実際のPrEP必要性と効果を判断できる可能性がある。」としている。

 

ニュースソース

Daniel Schmidt  (Department of Infectious Disease Epidemiology, Robert Koch Institute, Berlin, Germany), et al.: Unsuspected drug shortage is impacting the German HIV PrEP supply – results of a cross-sectional survey show: majority of PrEP users had to stop or switch to on-demand PrEP and higher unmet PrEP demand among women, diverse individuals, and those in rural or small-town areas.
BMC Infect Dis. 2025 Nov 13;25(1):1574. doi: 10.1186/s12879-025-12086-9. DOI: 10.1186/s12879-025-12086-9(オープンアクセス)

 

2025年11月18日
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