Military Review、2025年7月号記事。Military Reviewは、Professional Journal of the U.S. Armyとのサブタイトルが付いているが、米陸軍の広報誌ではないよう。
本論文(論説)では、戦闘作戦のための医療ロジスティクスの強化について概説している。著者らは、「国防総省(DOD)は、医療ロジスティクスの脆弱性に対処するために、実証済みの商業医療のベストプラクティスを採用しながら、医薬品を弾薬として扱うべき。」と主張している。
一方、本論文を紹介したEuropean Pharmaceutical Reviewは、「予測分析、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンの可視性、官民パートナーシップに関する議論は、馴染みのある問題の要素ともいえる。」とコメントしている。以下は、論文の要約(ポイント)。
- 医薬品供給を「弾薬」と同等に扱う必要性
軍事作戦において、兵士の生存や任務遂行には安定した医薬品供給が不可欠であり、医薬品は弾薬と同等の重要資源であると位置づけられる。しかし、現行の米国防総省(Department of Defense:DOD)の供給網は脆弱で、民間企業との協力体制も不十分である。
- Just-in-timeモデルのリスク
現在の供給は「必要なときに必要な分だけ確保する」Just-in-time方式に依存している。この方式はコスト効率的である一方、自然災害、地政学的混乱、需要急増の際に容易に破綻し、供給途絶を引き起こす危険性が高い。日本脳炎ワクチンなど単一施設依存の事例はその典型である。
- 改革の方向性
- 予測的備蓄(predictive stockpiling):需要動向を分析し、事前に備蓄を強化する。
- 供給網の可視化:ブロックチェーン等を活用し、流通経路を透明化。
- 官民連携:強制的な介入ではなく、自発的な協力を促すパートナーシップを形成。Defense Production Act第VII条がその根拠となり得る。
- 原料依存の是正
有効成分(Active Pharmaceutical Ingredient :API)や原薬出発物質/原料前駆体(Key Starting Material :KSM)の供給はインドや中国への依存度が極めて高い。このリスク低減には、国内生産基盤の拡充、税制優遇や補助金といったインセンティブ付与、規制緩和が必要とされる。
- 国際協力の推進
供給リスクの分散のため、同盟国や価値を共有する国々との共同生産・供給体制を整備することが重要である。これにより、特定地域への過度な依存を回避し、安定性を高めることが可能となる。
- 中央管理と地域備蓄
医薬品供給を中央で一元的に管理しつつ、地域ごとの備蓄(unit basic load war reserve)を確立することで、期限切れリスクの軽減、効率的な在庫循環、供給安定性の確保が実現できる。
結論
本稿は、将来の大規模戦闘作戦に備え、医薬品を「戦略的資源」として再定義する必要性を指摘している。供給網の脆弱性を克服し、国内生産・国際協力・備蓄体制を強化することが、兵士の生存と軍事作戦の持続性を確保する鍵となる。
ニュースソース
Maj. Gen. Paula C. Lodi, (U.S. Army), et al. : Treating Medicine as Ammunition-Enhancing Medical Logistics for Large-Scale Combat Operations. Military Review
https://www.armyupress.army.mil/journals/military-review/online-exclusive/2025-ole/medicine-as-ammunition/(オープンアクセス)
Maj. Gen.は、Major Generalの略称で、米国陸軍ではBrigadier General(准将)とLieutenant General(中将)の間の階級。