【論文】米国の医薬品製造施設における気象災害の脅威

JAMA、2025年8月20日オンライン掲載のリサーチレター。以下は要約。

2024年9月のハリケーン・ヘレーネによるバクスター社ノースカロライナ工場の被災は、米国の静脈内(IV)輸液の全国的不足を引き起こした。同様の事例は2017年のハリケーン・マリアでも起きており、気候変動による極端気象が米国医薬品供給の脆弱性を一層深刻化させている。本研究は、2019年から2024年にかけて、気候関連災害が米国内の医薬品製造施設に与えた影響頻度を調査した論文。

方法

  • 米国食品医薬品局(FDA)の登録データから2019~2024年の製造施設を特定。
  • 連邦緊急事態管理庁(FEMA)の大統領災害宣言データと照合。
  • 対象災害は火災、ハリケーン、嵐、竜巻、洪水。
  • 年ごとの影響施設数を算出し、ロジスティック回帰分析を実施。

結果

  • 調査期間に活動していた施設は最大で10,861か所。
  • そのうち累計62.8%が、少なくとも一度は災害宣言のあった郡に所在。
  • 年平均では全施設の約34%が災害の影響を受けた。
  • 災害種別では全ての種類が影響を及ぼしたが、ハリケーンが最も頻繁であった。
  • 災害発生率は製造施設の有無により統計的な差はなかった。

ディスカッションと結論

  • 米国の医薬品製造施設の約3分の2が、調査期間中に災害リスクに直面していた。
  • これらの災害は有効成分製造から包装に至るまで、供給網全体に混乱を及ぼす可能性がある。
  • 施設の生産量や製品種類に関する情報不足、郡単位での分析による影響のばらつきなど、研究には限界がある。
  • 災害が実際に医薬品不足を引き起こした頻度に関する全国的データも不足している。

以上から、気候関連災害による薬剤不足は、米国の医薬品供給網が依然として脆弱であることを示している。特定の施設に生産が集中しているため、災害による供給途絶は医療提供に深刻な影響を与える。したがって、気候リスクを考慮した供給網の透明性確保、生産拠点の戦略的分散、災害リスク管理戦略の導入が急務である。

(坂巻コメント:日本でも、医薬品製造設備の水害リスク評価が求められる。)

 

ニュースソース

Mahnum Shahzad(Department of Population Medicine, Harvard Medical School, Boston, Massachusetts): Threats of Weather Disasters for Drug Manufacturing Facilities in the US.
JAMA, Published Online: August 20, 2025 doi: 10.1001/jama.2025.13843(オープンアクセス)

2025年8月21日
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