MedCity News、2025年7月23日記事。タイトル和訳は「オール・アメリカン・ドラッグの神話とトランプの関税が製薬サプライチェーンに見落とすものThe Myth of All-American Drugs and What Trump’s Tariffs Miss About Pharma Supply Chains」。以下は、記事の要約。
1.細胞治療薬企業と関税の影響
Nkarta(エヌカルタ)社は自己免疫疾患向けの細胞治療薬を開発中であり、米国内で製造しているが、製造に必要な化学物質や機器はグローバルに依存している。特にドイツの一社が供給する器材と化学物質は唯一無二であり、使用期限も短いため在庫確保が困難である。関税導入はこのような原材料調達をさらに困難かつ高コストにする可能性がある。(バイオ医薬品や再生医療等製品の製造はファブレス化が進んでおり、製品製造のためのさまざまな資材の供給元もグローバル化している。製造国内回帰を困難にしている大きな要因。日本における国内製造議論においても留意すべき点。)
2.医薬品関税・税制に関わる歴史と医薬品製造の国外移転
1994年に発効したWTOの医薬品協定により、医薬品および原薬(API)には長年関税が課されてこなかった。2010年の最終更新の時点で、10,000以上のAPIが対象となっているとされる。この協定の存在により、製薬企業は関税を意識せずにグローバル調達を行ってきた。
また、各国の税制(法人税)も米国外への製造拠点の移動が進んだ。1970年代、医薬品製造はまず税制優遇のためにプエルトリコに移り、次にヨーロッパに移った。 最終的には、中国とインドが医薬品と原薬製造の主要市場となったが、その理由はコストが著しく低いからとされる。
アイルランドが医薬品の生産拠点に成長したのは、税制上の優遇措置があったからとされる。しかし、立地選定の際に考慮されるいくつかの要因において、税負担以外にも、労働力、地政学、気候、環境要因も考慮されなければならない。
3.医薬品製造の再国内化、トランプ関税による製薬企業の対応
第1期トランプ政権では、製薬企業に製造拠点の米国回帰を促すために法人税を中心に税制改革を行ってきた。さらに緊急事態への備えという観点から製造問題と医薬品不足に取り組んだ。 2020年に署名されたコロナウイルス支援・救済・経済安全保障(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security:CARES)法には、医薬品・原薬メーカーにリスク管理計画の策定・維持を義務付ける条項が含まれている。
しかし、医薬品のサプライチェーンは数十年かけて形成された国際的ネットワークであり、これを解体して国内回帰させるのは容易ではなく、コストもかかる。
一部の大手製薬企業は米国内製造への投資を進めているが、それらの計画の多くは関税導入以前から始まっていた。新工場は主に「仕上げ工程(fill and finish)」用であり、原材料や中間製品は引き続き海外から調達される可能性が高い。また、米国で新たに発表された医薬品製造の発表は、先発医薬品であり、米国における処方薬の90%はジェネリック医薬品であって、この領域において米国での製造を発表した企業はない。
4.医薬品関税がもたらす課題
- 医薬品不足リスク:ジェネリック医薬品は利幅が小さく、わずかなコスト増加でも製造継続が困難となる。APIの供給元が限られる製品も多く、関税導入により撤退や供給中断のリスクが高まる。既に46%の経口薬が1錠1ドル未満で販売されており、コスト増は継続困難に直結する。
- 複雑なサプライチェーン:生物学的製剤の製造が専門化しており、資材を供給する業者にとっては参入障壁が高くなり、生物学的製剤メーカーは資材の代替品を見つけるのが難しくなる。代替品は、コストが高くなったり、遅延が生じたり、製造工程の変更が必要になったりする可能性もある。
- 関税の費用負担と価格転嫁:関税によるコスト増は最終的に価格に転嫁されるが、多くの医薬品は年単位の契約により価格変更が制限されており、すぐに価格へ反映することは難しい。また、保険者や自費診療患者の負担増が想定され、結果として医療費全体の上昇を招く。
5.関税政策の今後の見通しと政治的含意
トランプ政権は、1962年通商拡大法第232条に基づき、安全保障を理由とする輸入調査を開始しており、これにより関税の正当化を図っている。2018年には同様のスキームで鉄鋼やアルミニウムに関税を課した前例がある。医薬品に対する関税も同様の道を辿る可能性が高い。
トランプ前政権による関税政策は、過去の共和党政権の自由貿易志向とは一線を画しており、超党派合意を崩す動きである。今後、製薬業界全体は新たなコスト構造への対応を迫られ、政策の不確実性が企業の投資判断を困難にしている。
ニュースソース
MedCity New: The Myth of All-American Drugs and What Trump’s Tariffs Miss About Pharma Supply Chains. (By Frank Vinluan on July 23, 2025)
https://medcitynews.com/2025/07/pharmaceutical-tariffs-supply-chain-drug-manufacturing-trade-wto-trump-cell-therapy-nkarta/?utm_campaign=MCN%20BioPharma&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz–1oi7F7iVXwiNTmBM7F1tXkVhmTymcc-WPGWC1to1_EESL4uEhSzKz_aDtJeeFPcsI6jeRa1yTVdrxTT62pcAT4dDbDOcwb-IEipwKYyr6mfclOOQ&_hsmi=372694323&utm_content=372694323&utm_source=hs_email