医療経済学を中心とした研究所であるOffice of Health Economics:OHEは、2026年3月12日、フランスの医療技術評価(HTA)制度の紹介と今後の課題に関するレポートを公表した。レポート前半はフランスのHTA制度(医薬品並びに医療機器)について概説し、イノベーション拡大や欧州HTA制度との調整など今後の課題を整理している。
フランスHTA制度の課題は以下の通りとしている。
第一に、革新的医薬品が増える中で「真のイノベーション」の定義が曖昧であること。
第二に、早期アクセス制度の拡大により短期データや非比較試験に基づく評価の不確実性が増していること。
第三に、EUで導入される欧州HTA規則(HTA Regulation:HTAR)と、その中核である共同臨床評価(Joint Clinical Assessment:JCA)への適応である。
フランス保健医療評価機構(Haute Autorité de Santé:HAS)の2025–2030戦略計画では、費用対効果評価の方法論の見直しや不確実性管理の強化が掲げられており、医療イノベーションへのアクセスと医療財政の持続性のバランスを取る制度改革が進められている。また、保健イノベーション庁(Agency for Health Innovation:AIS)との協力により、高インパクト医療技術の早期モニタリングも進められている。
今後、フランスHTA制度は、臨床価値評価・費用対効果・財政制約・欧州制度との調和をどう両立させるかが重要な課題となる。HASが科学的厳格性と独立性を維持しながら制度を進化させられるかが、フランス医療制度の持続可能性を左右すると指摘している。
ニュースソース
Office of Health Economics: Around The World in HTAs: France – Three Core HTA Values.
https://www.ohe.org/insights/around-the-world-in-htas-france-three-core-hta-values/?utm_campaign=OHE%20Bulletin&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz–3KsI4LXcaOHHKfigQKN3mnb05oM3aq87z2vhW5GxwU9W-zKTLbBkkOHjKCemP4_VlNTy9xyo3H-iTltY49xgWQpSNzT_3ZXHZ-lsnaYzgT6vTxZc&_hsmi=408483052&utm_content=408483548&utm_source=hs_email
(フランスのHTA制度概要)
フランスの医療制度は社会保険型医療制度(Social Health Insurance)を基盤としつつ、国民皆保険を実現するために国家医療制度の要素も取り入れた混合型システムである。医療政策は主に保健省(Ministry of Health:MoH)が担い、医療資源の計画・財政は保健省、保険者、地域保健庁が共同で管理する。医療費の約85%は公的財源で賄われ、医薬品費用の80%以上が公的保険でカバーされている。
医療技術が保険償還されるためには、①販売承認取得、②医療技術評価(HTA)、③償還リスト掲載という手続きを経る必要がある。HTAは主にフランス保健医療評価機構(Haute Autorité de Santé:HAS)が担当し、その評価結果が償還と薬価決定の基礎となる。価格交渉は医薬品経済委員会(Comité Économique des Produits de Santé:CEPS)が中心となって行う。
医薬品評価では、HASの透明性委員会(Transparency Committee:TC)が次の2つの指標を評価する。
・SMR(Service Médical Rendu):医療上の有用性や公衆衛生への影響
・ASMR(Amélioration du Service Médical Rendu):既存治療と比較した追加的臨床価値
ASMRは有効性、安全性、生活の質(Quality of Life:QoL)改善、死亡・罹患への影響、未充足医療ニーズなどを基に評価される。エビデンスとしては、直接比較ランダム化試験(Randomized Controlled Trial:RCT)が重視される。
フランスでは経済評価(費用対効果分析)は償還の必須条件ではないが、2023年以降、
・ASMR I〜III(高い臨床価値)を主張する医薬品
・年間売上2000万ユーロ以上が見込まれる製品
などの場合、費用対効果評価(cost-effectiveness analysis)が義務付けられている。ただし英国のような費用対効果閾値(ICER threshold)は設定されていない。
さらにフランスには、販売承認前に最大2年間の早期アクセスを認める早期アクセス制度(Autorisation d’Accès Précoce:AAP)があり、重篤疾患や未充足医療ニーズの高い治療への患者アクセスを早める仕組みとなっている。
医療機器については、HASの医療機器評価委員会(CNEDiMTS)が臨床評価を行い、経済・公衆衛生評価委員会(CEESP)が経済評価を担当する。