Lancet、2026年3月7日社説。トランプ政権の反ジェンダー政策が、公衆衛生研究や女性・LGBTQI+の健康、そしてジェンダー平等の取り組みに深刻な影響を及ぼす可能性を指摘したとする。
米国では2025年1月、米国保健福祉省(US Department of Health and Human Services:HHS)などの政府文書で「ジェンダー」という用語の使用を停止し、多様性・公平性・包摂(Diversity, Equity and Inclusion:DEI)プログラムへの資金提供を停止する政策が導入された。さらに拡張されたメキシコシティ政策(Mexico City Policy)では、米国の国際援助を受ける団体が中絶関連サービスやLGBTQI+の権利支援活動を行うことが禁じられている。
こうした動きは、世界的に広がる反ジェンダー政治とも連動しており、ウガンダやポーランドなどではLGBTQI+や中絶に対する規制が強化されている。その結果、国際機関や研究機関もジェンダーや平等の問題を公然と扱うことに慎重になりつつある。
しかしジェンダー格差は依然として健康に大きな影響を与えている。世界では6億人以上の女性が親密なパートナーからの暴力を経験しており、10億人以上が幼少期の性的暴力を経験していると推定される。紛争や貧困と結びついた不平等も深刻で、アフガニスタンでは女性の教育禁止によって医療人材が不足し、妊産婦死亡の危機が拡大している。世界保健機関(World Health Organization:WHO)によれば、妊産婦死亡の約3分の2は紛争地域など不安定な状況で発生している。
さらに研究資金停止やデータ収集制限により、性別による健康格差の研究も妨げられている。性別は疾病リスク、医療アクセス、健康結果に影響する重要な要因であり、これを無視すれば不平等はむしろ悪化する可能性がある。
ランセット委員会(Lancet Commission on Gender and Global Health)は、ジェンダー不平等の根本原因として社会に埋め込まれた権力構造や家父長制的規範を指摘し、すべての健康政策に「ジェンダー正義」の視点を組み込む必要性を提唱し、社会全体の健康を守るためには、ジェンダー平等と公平性を維持・強化することが不可欠であるとする。
ニュースソース
Lancet Editorial: Gender equality and equity: essential for health and society
The Lancet, Volume 407, Issue 10532, 915
https://www.thelancet.com/action/showCitFormats?doi=10.1016%2FS0140-6736%2826%2900456-3&pii=S0140-6736%2826%2900456-3