欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)は、2026年1月30日、臨床開発においてベイズ統計学(Bayesian statistics)を利用する研究における主要な考慮事項に対処するための「コンセプト・ペーパー」を発表した。
本コンセプト・ペーパーは、EMAが、臨床開発におけるベイズ統計学の利用について、規制当局としての考え方や要件を整理する反映文書(Reflection Paper)を新たに策定する必要性を示したものである。従来、医薬品開発および承認審査では頻度論的手法(Frequentist methods)が標準であったが、ICH E9をはじめとする国際ガイドラインでは、条件付きでベイズ手法の使用が認められてきた。
近年、小規模集団、外部対照データの活用、適応的試験、早期開発段階や用量探索、薬物動態モデルなどでベイズ手法の活用が拡大しており、EMAへの申請資料においても、外部データを借用(borrowing)するベイズ解析の提案が増加している。一方で、確認的試験(confirmatory setting)において、どのような条件でベイズ手法が許容されるのか、またどの程度の方法論的説明や検証が求められるのかが不明確であることが問題として指摘されている。
本資料では、特に以下の点が規制上の論点として整理されている。すなわち、①ベイズ手法を用いる合理的な理由の説明要件、②事前分布(prior distribution)の構築根拠と外部データの妥当性、③事前情報が事後分布に与える影響の定量化、④感度解析やロバスト性評価、⑤型I誤りに代わる誤り制御の考え方、⑥適応的デザインや中間解析を含む場合の運用特性(operating characteristics)の提示、⑦申請資料(MAA)に記載すべき解析手法やシミュレーション結果の範囲、である。
今後策定される反映文書では、ベイズ統計の基本概念整理から、試験デザイン段階での留意点、事前分布の規制上の審査視点、解析・報告方法、感度解析や信頼性評価の在り方までを体系的に示すことが予定されている。また、EMAはベイズ手法を用いる場合には早期に規制当局と相談することの重要性を強調している。
本コンセプト・ペーパーは2026年1月から4月30日までパブリックコメントに付され、意見を踏まえて2027年にドラフト反映文書、2028年に最終版を公表する計画である。本取組は、EMA審査官にとっての評価基準の明確化と同時に、企業・申請者に対しても、ベイズ手法を規制判断に耐えうる形で用いるための共通言語と期待水準を提示するものとなることが期待されている。
ニュースソース
European Medicines Agency: Use of Bayesian methods in clinical development – Scientific guideline.
https://www.ema.europa.eu/en/use-bayesian-methods-clinical-development-scientific-guideline