米国の医療支出は2024年に5兆ドルを超えて急増 -【論説】医療支出の成長は価格のせいじゃない

米国CMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)によると、2024年の医療支出は米国国内総生産の18%を占め、2023年の17.7%から増加し、米国の経済成長を上回ったとされる1)。

これに対し、Health Affairs Forefront、2026年1月15日の「国民医療費の増加:問題なのは価格じゃない、バカ」と題する論説で、米国の医療費増大は「価格」ではなく、医療の利用量・提供のあり方・制度設計が主因であることを示している。

Health Affairsの記事では、米国の保健医療支出(National Health Expenditures:NHE)は2024年に7.2%増(2023年7.4%)と高止まりし、医療費の対国内総生産(Gross Domestic Product:GDP)比は18%に達したうえ、2033年には20.3%に達すると見込まれているとし、著者は、雇用主・個人から公費へ負担を付け替えても根本解決にはならず、支出そのものの伸びを抑える制度改革が不可欠だと主張する。

とくに重要なのは「何が増加を牽引していないか」である。2023–24年には医療物価の超過インフレはほぼ見られず、小売医薬品価格も実質的にインフレ以下の伸びにとどまった。保険会社の非医療支出(利益等)も医療支出より低い伸びであり、平均的な価格上昇や保険者利益は主因ではない。高価薬が問題になるのは価格よりも利用拡大による。

真のドライバーは利用量(volume)とケアの強度(intensity)である。
①コーディング強度の上昇(重症度や評価管理コードの“格上げ”、AI・アンビエント記録の影響)により、臨床価値が変わらなくても支出が増える可能性がある。
②AI医療の導入は効率化の余地がある一方、出来高払い(fee-for-service)の下では新規診断や追加検査(例:CT)を誘発し支出増につながり得る。
③医療インフラの再編・統合・患者流動(病院統合、外来拡張、Private Equity参入、患者の高価格施設へのシフト)は支出を押し上げやすい。
④高価製品の利用拡大では、GLP-1薬が典型例で、価格低下でも使用量増が支出を伸ばした。

著者は対策として、低価値ケアと不適切コーディングの抑制、「代替支払モデル(Alternative Payment Models:APM)」の設計改善、価格規制や標準化による市場失敗への対応、「価値連動型保険設計(Value-Based Insurance Design :VBID)」などを提案する。また、メディケアのASP+6%支払いやCMSの新モデル(GLOBE、GUARD、Generousなど)の影響検証が重要だと指摘する。

結論として、医療費増大は「誰が払うか」ではなく「どのように医療を設計し提供するか」という制度選択の帰結であり、財政持続性には支払い改革と医療提供の再構築の両立が不可欠だと論じている。

 

(坂巻コメント)論説のタイトルは、「Growth In National Health Expenditures: It’s Not The Prices, Stupid」!。Stupid=バカとはすごいタイトル)

 

ニュースソース

  1. Reuters: US healthcare spending soars to over $5 trillion in 2024.(By Amina Niasse, January 15, 2026)
    https://www.reuters.com/legal/litigation/us-healthcare-spending-soars-over-5-trillion-2024-2026-01-14/
  2. Michael E. Chernew: Growth In National Health Expenditures: It’s Not The Prices, Stupid.
    Health Affairs Forefront, January 15, 2026, 10.1377/forefront.20260113.24167(オープンアクセス)

 

  • 価値連動型保険設計(Value-Based Insurance Design:VBID):患者の自己負担を「医療の価値」に応じて変える仕組み。
  • GLOBEモデル(Global and Professional Direct Contracting:GLOBE):CMSの新しい包括支払い+成果連動型モデル。医療提供者により大きな財務リスクと裁量を与え、総医療費を抑えつつ質を改善させる狙い。
  • GUARDモデル(Guarding Access to Medicare Part B Drugs:GUARD):高額Part B医薬品の支払い改革モデル。過剰利用や価格インセンティブを抑え、必要な薬へのアクセスを守りつつ支出を抑制する目的。
  • Generousモデル(Generating Medicare Drug Savings:Generous):医薬品支出の削減を狙う実証モデル。価格交渉・償還設計・使用適正化を組み合わせて、メディケアの薬剤費を持続可能にする試み
2026年1月16日
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