【論説】米国のプライマリケア崩壊の真因は「医師不足」ではなく、医師団体による職域独占

Health Affairs Forefront、2026年1月12日公開記事。米国のプライマリケア崩壊の真因は「医師不足」ではなく、医師団体による職域独占(professional gatekeeping)にあるとする論考。

NEJMが描いた「過重労働と燃え尽きるプライマリケア医」の危機に対し、筆者は米国医師会(American Medical Association:AMA)自身がこの危機を作り出していると批判する。AMAは「患者安全」を掲げながら、薬剤師や看護師など他職種の診療範囲(scope of practice)の拡大を阻止するため、毎年2,000万ドル超をロビー活動に投じ、2023年だけで100以上の法案を葬った。その結果、医師はインスリン調整や降圧薬の微調整といった、本来薬剤師が最も得意とする業務に忙殺され、診断や複雑症例に時間を割けなくなっている。

薬剤師は、抗凝固療法、糖尿病、高血圧の薬物管理を何十年も安全に行ってきており、アウトカムは通常の医師管理と同等かそれ以上である。それでもAMAは、医師の監督下で薬剤師が患者を管理する「協働実践(Collaborative Practice Agreement:CPA)」さえ「不適切」として反対する。これは安全の問題ではなく、権限と支配の問題だというのが筆者の主張である。この職域防衛は、人工的な人手不足を生み、患者は予約が取れず、医師は燃え尽き、医療費は膨張するという「設計された危機」を招いている。

解決策はシンプルで、専門性に応じて仕事を再配分することである。医師は診断と高度医療に集中し、薬剤師は慢性疾患の薬物管理を担う「フォース・マルチプライヤー」になるべきだ。そのための具体策として、

  • 2800(Pharmacy and Medically Underserved Areas Enhancement Act):医療過疎地域での薬剤師の慢性疾患管理をMedicareが償還
  • HR 3164(Ensuring Community Access to Pharmacist Services Act):呼吸器感染症の検査・治療を薬剤師が保険診療で提供

が挙げられている。さらに、アイダホ、コロラド、アイオワなどでは薬剤師の独立処方がすでに実施され、メリーランドやバージニアなどではMedicaidが薬剤師の臨床業務を償還している。

さらに筆者は、Public Readiness and Emergency Preparedness Act(PREP Act、公衆準備及び緊急事態対処法)のように、連邦法で州の職域制限を上書きする仕組みを、慢性疾患管理にも広げるべきだと主張する。COVID-19で、薬剤師が全国で安全にワクチン接種や検査を行えたことが、その実証である。エビデンスも、人材も、法律案も揃っているのに、前に進まない唯一の理由はAMAの職域防衛である。プライマリケアの危機を本当に解決するなら、医師会の権益ではなく、患者アクセスと医師の持続可能性を優先すべきだと結論付ける。

 

ニュースソース

Steven N. Leonard(Ohio Northern University Raabe College of Pharmacy in Ada, Ohio): Stop Pretending Pharmacists Can’t Meet Primary Care Needs.
Health Affairs Forefront, 10.1377/forefront.20260109.332358

https://www.healthaffairs.org/content/forefront/stop-pretending-pharmacists-can-t-meet-primary-care-needs

(オープンアクセス)

 

(関連論文)薬剤師の臨床サービスによるプライマリケア人材の育成:米国各州での薬剤師の医療提供者としての地位について示されている。
Marie Smith, et al. : Building The Primary Care Workforce With Pharmacist Clinical Services. Health Affairs Forefront, 10.1377/forefront.20241112.874719 (オープンアクセス)

 

2026年1月13日
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