【論文】抗菌薬耐性に対するファージ療法実用化・規制・国際協調のためのタスクフォース会議

抗菌薬耐性(AMR)の増加と抗生物質の革新不足の中で、バクテリオファージはヒト医療、動物、食品分野における潜在的な治療法として注目を集めている。歴史的に使用されてきたにもかかわらず、ヒトへの臨床応用は科学的、産業的、規制上の課題によって依然として制約されている。本稿は、AMRの危機に対して、ファージ療法をどう実用化・規制・国際協調していくかを、米国・EU・英国・カナダの規制当局のタスクフォース「大西洋横断タスクフォース(Transatlantic Task Force on Antimicrobial Resistance:TATFAR)」が整理した政策・規制の総覧論文。

AMRにより2050年までに年間800万人超が死亡すると予測される中、抗菌薬に代わる選択肢としてファージ療法が再評価されているが、RCTによる有効性証明はまだ乏しい 。現在の臨床応用には2つの流れがある。

①ベルギー型の個別化ファージ(患者ごとに菌に合うファージを調合)と、

②米国NIH型の固定製剤ファージ(標準化したカクテルをRCTで評価)であるが、どちらも製造・試験・規制のハードルが高い。

ファージは生物製剤として規制されるが、菌ごとに組成が変わる個別化医療であるため、従来の医薬品規制(GMP・承認・変更管理)が適合しないという構造的問題がある。EU・米国・英国・カナダはいずれも、

  • IND/CTA
  • GMPまたはGMP様管理
  • RCTによる有効性証明

を求めるが、個別化ファージをどう承認するかの制度は未整備であり、EUでは法改正で「可変組成医薬品」として扱う枠組みを検討中である。最大のボトルネックは、

感受性試験の標準化欠如、②PK/PDモデル不足、③高コストGMP製造、④市場規模の不確実性、⑤償還モデル不在であり、これが企業と投資を遠ざけている。そのためTATFARは、抗菌薬+ファージ併用、One Health(人・動物・環境)、低中所得国での活用を柱に国際協調を進め、米NIHのCAPT-CEPやEUのHorizon Europe臨床試験支援を立ち上げた。
(坂巻コメント:日本はオブザーバー参加。ファージ療法について、産業・安全保障・製造の問題として扱う部署が不在。)

 

ニュースソース

Kyung Moon (1National Institute of Allergy and Infectious Diseases, National Institutes of Health, Bethesda, MD) , et al. : Considerations and perspectives on phage therapy from the transatlantic taskforce on antimicrobial resistance.
Nature Communications | ( 2025)1 6:10883  https://doi.org/10.1038/s41467-025-64608-3

 

2025年12月28日
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