生体内でCAR-T細胞を直接作り出す治療法、最初の患者投与で成功

Science 誌、2025年12月9日記事。
生体内でCAR-T細胞を直接作り出す革新的ながん治療が初の患者投与で大きな効果を示し、従来型CAR-Tの限界を超える可能性と、安全性への課題を同時に浮き彫りにしたことを伝えている。

従来のCAR-T細胞療法は、患者から採取したT細胞を実験室で遺伝子改変して戻すという複雑で高価な手順が課題だったが、今回の「生体内CAR-T」は、CAR遺伝子を運ぶレンチウイルスを患者の体内に投与し、その場でT細胞を治療用に書き換える手法を用いている。

多発性骨髄腫患者を対象とする2つの初期臨床試験では、計8名の患者において骨髄中のがん細胞が消失するなど深い治療反応が得られ、従来治療が効きにくい腫瘍部位にも効果が及んだ例が報告された。こうした結果は、すでに「実現可能性の段階を超え、有効性と安全性の最適化が今後の課題」と専門家が評価するほどの前進である。

一方で、安全性には慎重な見極めが必要で、ある試験では投与直後に血圧低下や錯乱が見られ、全例で軽度のサイトカイン放出症候群が起きた。レンチウイルスが宿主DNAへ組み込まれる性質をもつため、発がんリスクへの懸念も残る。別の試験では副作用がより軽かったものの、長期追跡データが不可欠とされる。また、企業買収の影響で1つの試験は中断されるなど、開発環境は流動的だ。

こうした背景のなか、脂質ナノ粒子を使ってCARのRNAを送達する非ウイルス型の生体内CAR-T技術も進んでおり、免疫刺激が少なく、ゲノム組み込みも起こらないため、安全性向上の可能性が期待されている。自己免疫疾患への応用例も現れ、分野全体が急速に進歩している。従来のCAR-T療法で数年以上の寛解を維持できる患者がいるように、生体内手法でも持続効果が得られるかが今後の大きな焦点といえる。

 

ニュースソース

Mitch Leslie: The first patients have been helped by cancer-fighting cells made directly in their bodies.
Science, doi: 10.1126/science.zv5rwjk

2025年12月12日
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