Generics Bulletin、2025年12月2日、インタビュー記事。専門家3名がバイオシミラー細胞・遺伝子治療は技術的には実現可能だが、現実化には前例のない規制の明確化、製造プロセスの進化、経済的整合性が求められると主張したとする(無料アクセス可)。
- 細胞・遺伝子治療は「インスタントコーヒー」では作れない
小分子薬が均質で量産しやすいのに対し、セル・遺伝子治療は種から農園を育てるような極めて複雑で精密な技術。バイオシミラー化は科学・規制・製造すべてで「業界史上最大の挑戦」とされ、実現まで10年は必要と見られる。
- 専門家のメッセージ:科学的には可能だが前提条件が巨大
専門家3名は「科学的には実現可能だが、規制当局・産業・支払者の前例のない協働が必要」と強調。初期の抗体バイオシミラーのように、“何がバイオシミラーか”の定義づくりがまず必要になるとする。
- 規制:まずは FDA が定義づくりをする段階
FDA はまだ CGT の「バイオシミラリティ」の要件を提示していない。“高い類似性”“臨床上の有意差なし”をどう立証するのか科学基準が未確立。場合によっては、505(b)(2)のような中間的承認経路が必要との指摘もある。
- 複雑性:セルと遺伝子は全く別物
遺伝子治療(in vivo)は比較的「最初にバイオシミラー化しやすい領域」。
一方、細胞治療(CAR-T等)は患者由来細胞を加工するため極度に複雑で、製品の定義すら困難。
- 製造:最大の壁は “プロセスそのものが製品である” こと
CGT はすべて工程がオーダーメイドで、
・統一プラットフォームなし
・標準化機器なし
・品質試験も独自仕様
という完全非標準化世界。バイオシミラー実現には、CDMO を含む製造ノウハウの共有(技術移転)が不可欠だが、現状はほぼ不可能。
- 標準化は始まったが道のりは長い
米国薬局方(USP) などが少しずつ標準化を進めるが、開発段階で規制が硬直するとイノベーションを妨げるため、10年以上かけて徐々に進むと予測。
- 知財:特許より恐ろしいのは「永久に消えない企業秘密」
CGT は特許・データ保護に加え、企業秘密(trade secrets)が最大の参入障壁。
特に製造工程の暗黙知は公開されず、バイオシミラー企業は「必須情報に永遠にアクセス不可」という構造。一部、裁判で過度に広い特許が無効化される例はあるが、根本的障壁は依然巨大。
- 市場性:参入価値がある領域は一部のみ
患者数が多めの希少疾患(例:鎌状赤血球症、特定がん、黄斑変性症)は成立余地あり。しかし、超希少疾患や一度治れば市場が消える治癒型治療は経済的に成立しにくい。
- 支払者:価格インセンティブが“逆”のため採用は進みにくい
病院や薬局は販売価格の%で儲けるため、高い先行治療ほど利益が出る。こうした逆インセンティブの中、バイオシミラーCGTの使用は促進されにくい。一方で、ホワイトバギングや支払者による施設買収など支払者主導で価格管理が強まる動きは始まっている。
- 産業動向:熱狂→冷静期へ
2020〜2022年は投資熱がピークだったが、
・高薬価と狭い対象
・有害事象
・商業的失敗
が続き、大手企業が相次いでCGTから撤退・縮小している。(例:武田、ノボ、Biogen、Roche/Spark、Pfizer)
- 未来:実現には“意図的な標準化”と“規制明確化”がカギ
・標準化されたプラットフォーム技術の整備
・製造要件の明確化
・市場性の事前評価
・支払者のインセンティブ調整
など、体系的な準備と協働が不可欠。
「可能性はあるが、実現には長い道のりと明確な市場価値の証明が必要」
というのが専門家の総括。
ニュースソース
Generics Bulletin: Can Biosimilars Take Root In Cell And Gene Therapy?
https://insights.citeline.com/generics-bulletin/leadership/interviews/can-biosimilars-take-root-in-cell-and-gene-therapy-ZZSU6HNBPBECBA2JPFZ7M72RKE/?utm_campaign=SPARC%20-%20Generics%20Bulletin%20-%20Daily&utm_source=Eloqua&utm_medium=Email&utm_content=SPARC%20-%20Generics%20Bulletin%20-%20Daily%20-%20FREE&utm_campaignID=&elqcst=272&elqcsid=125