【論説記事】なぜ今、GDPに代わる指標で合意する必要があるのか

Nature、2025年11月18日掲載記事。

世界の多くの国が経済成長(GDP増)を主要な目標に据えてきたが、それだけでは人々の幸福や環境の持続可能性を十分に捉えられない。従って、「成長を超えた(“beyond growth”)」尺度を定め、幸福・福祉・持続可能性に焦点を当てた代替指標を合意する必要があるとする。Natureがこうした記事を掲載していることにも注目される。

主な論点

  1. 成長優先の限界
    経済成長指標(たとえばGDP)は、所得や生産の拡大を反映するが、それが直接に人々の生活の質や幸福、社会・環境の健全性を確実に高めるものではない。環境破壊・資源枯渇・格差拡大など、成長のみを追うことの負の側面も無視できない。
  2. 幸福・福祉へのシフト
    代替となる視点として「人々の福祉」「ウェルビーイング」「生態系の健全性」を重視する指標が挙げられている。たとえば、健康寿命、心の健康、社会関係性、自然環境の質などがそれにあたる。これらは単純な経済規模の数字よりも、人々の実感に近い。
  3. 持続可能な社会実現のための制度設計
    幸福・福祉・環境といった価値を実現するには、政策・制度・経済構造の転換が必要である。具体的には、再生可能エネルギーの普及、循環型経済への移行、生活・働き方改革、福祉や公共サービスの再構築などが挙げられている。
  4. 喫緊の合意形成
    こうした新たな尺度・価値観を社会として定着させるには、国際的・国内的な合意が鍵となる。政府・企業・市民社会が、成長一辺倒ではなく、多次元的な目標を共有・導入する必要がある。そして、そのための指標やデータ収集・評価手法も整備すべきである。

インパクトと論点

  • この論説は「成長=善」という従来のパラダイムを問い直すもので、特に気候変動・資源制約・社会的公平性といった今日的課題と直結している。
  • 福祉・環境重視の指標へとシフトすることは、政策立案やビジネスの在り方にも影響を与える。たとえば、企業が売上や利益だけでなく、社会的・環境的価値を重視する「ステークホルダー資本主義」を採用する動きと親和性が高い。
  • 一方で、こうした価値観/指標の変化には、既存の制度・利害構造・文化を変えるハードルがある。合意づくり・実装・データ整備・モニタリングといった実務面の課題も提示されている。

 

ニュースソース

Robert Costanza, et al.: Beyond growth — why we need to agree on an alternative to GDP now.
Nature 647, 589-591 (2025) https://www.nature.com/articles/d41586-025-03721-1?utm_source=Live+Audience&utm_campaign=dc6659d87f-nature-briefing-daily-20251119&utm_medium=email&utm_term=0_-33f35e09ea-499009201

2025年11月20日
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