JAMA NetworkによるCME(継続医学教育)およびMOC(継続専門医認定)の情報拠点であるJN LearningTMのポッドキャスト。AIを活用した新治療法開発を目指すバイオテック企業 Insitroのチーフ・エクスプロレーション・オフィサー(Chief eXploration Officer )、Ajamete Kaykas氏へのインタビュー。創薬におけるAI利用の現状が理解できる。以下は、Kaykas氏談話のポイント。
1.Insitroの3つの基盤プラットフォーム
(1) ClinML:ヒトデータ解析
- UK Biobankのような大規模データを活用し、MLで表現型の精緻化や疾患の遺伝的ドライバーを探索。
(2) CellML:細胞での大規模実験 + 高次元データ
- CRISPRを使った遺伝子摂動を自動化し、大規模に実行。
- 画像などの“高次元データ”を取得し、MLで“疾患軸”を定義して標的探索に活用。
- 公開データでは十分ではないため、自前で高品質データを大量に生成することが決定的に重要と強調。
(3) ChemML:DNA-encoded library(DEL)による化合物探索
- ClinML・CellMLで得た標的に対してDELで化合物探索。
→ この3基盤が統合的に動き、創薬サイクルのエンジンを構成している。
2.Insitroの“差別化要因(Secret Sauce)”
(1) データとインフラが最初から統合設計されている
- 大手製薬はサイロ化が進んでおり、後付け統合が難しい。
- InsitroはAI/MLを前提にゼロベースで構築。
(2) “バイリンガル人材”の存在
- ML・データサイエンスと生物学の両方を深く理解する人材。
- 生物学者と計算科学者を物理的・組織的に統合。
3.データ生成の重要性と“高次元データ”の利用
(1) 公開データだけでは不足
- 公開データは量も質も限界があり、実験条件やメタデータが不十分。
(2) 自社実験の徹底
- CRISPR摂動細胞の画像データなど、人間が解釈できないレベルの高次元データを機械学習に読ませる設計。
- 高品質で統合されたメタデータが創薬の精度を左右。
4.「AI創薬はまだ始まったばかり」
(1) 現状に過度な期待は禁物
- “派手な成果がまだ出ていないのは当然”。
- 生物学側の技術・計測の進化が追いつく必要がある。
- 機械学習もまだ進化途上。
(2) 長期視点で初めて効果が出る
- 創薬は時間軸が長く、AI導入後すぐにパイプラインが爆発的に増えるものではない。
5.ターゲットの“多すぎ問題”と false positives
- 遺伝学・解析技術の発展で標的候補は大量。
- ボトルネックはヒト試験・動物試験のキャパシティに移動。
- InsitroはMLで偽陽性(false positives)を減らす仕組みを高度化している。
6.AI Scientist(AI研究者エージェント)の限界
- コード生成のような“完全に人間が作った体系”にはAIは強い。
- しかし生物学は未解明領域が大きいため、
「AIだけでは信頼性も rigor も不足」→人間の生物学者が不可欠。
7.若手研究者へのアドバイス
- 生物学 × データサイエンスのハイブリッド人材が最強。
- それが難しければ、両領域が真に統合されている組織文化を選ぶべき。
- 「学び続ける文化」がある環境かが重要。
まとめ
AI創薬はまだ黎明期で、鍵となるのは高品質データの自前生成とML・実験のハイブリッド化。
AIは研究者を置き換えるのではなく、研究者を強化する存在になる。
ニュースソース
JN Learning:AI for Drug Discovery.
https://edhub.ama-assn.org/jn-learning/audio-player/19015752?utm_medium=email&utm_source=postup_jn&utm_campaign=article_alert-jama&utm_content=olf-tfl_&utm_term=110625
2025年11月7日