Health Affairs Forefront記事。
バイオ医薬品は高価で、医療費の大きな負担になっている。その代替としてバイオシミラーは25%以上安価だが、米国ではMedicare Part Bの平均販売価格(average sales price:ASP)制度が障害となり、市場参入や継続が難しくなっている。とくに、ASPの構造によってバイオシミラーの価格が下がるほど償還額も下がり続ける「ASPスパイラルASP Spiral」が起き、メーカー撤退のリスクが高まっている。論文は、ASPスパイラルを避けるため、バイオシミラーの償還方法の改革を提案している。
ASPスパイラル
- ASPは四半期ごとに報告される実勢価格で、リベート込みで算出される。
- バイオシミラーは参照製品と別コードで算出されるため、ジェネリックのような連動した価格調整が働かない。
- 価格競争→ASP下落→償還低下→さらに割引要求→ASP下落…という悪循環が生じる。
- 2028年からは参照製品の「MFP(最大公正価格)」がASP算定に入る予定で、スパイラルはさらに悪化する見通し。
米国の償還の仕組みは、日本と全く異なり、しかもわかりにくいが、価格下落がバイオシミラー市場の持続可能性(サステナビリティ)を阻害している点は、日本の市場実勢価薬価改定と同じ。以下、論文のポイント(3つの提案骨子)。
A. 現行ASP制度を維持しつつ、ASPの下限(ASP Floor)を設定
- バイオシミラーのASPが一定以下に下がらないよう、参照製品ASPに連動した下限値を設定する案。
- ASPスパイラルの底抜けを防ぎ、市場撤退を抑止。
影響
- 支払者:予測可能性向上、ただしコストは増える
- 医療機関:償還安定でバイオシミラー採用が進む
- メーカー:過度な値引き圧力が弱まり参入・継続しやすい
- 患者:自己負担額は増える可能性
B. ASP算定式からリベート/割引を除外する(2案)
B1:支払者向けリベートをASPから除外
- ASPの下落ペースを緩やかにする
- 医療機関のコスト回収が安定
- 支払者の交渉力は低下
B2:医療機関向け割引をASPから除外
- 競争は維持しつつ、ASP下落を緩和
- 支払者主導の価格交渉が強まる
- 医療機関の透明性が低下する可能性
どちらもASP下落を抑えて市場撤退を防ぐ効果があり、メーカーの持続性に寄与。
C. バイオシミラーを「取得価格ベース」で償還する新方式(大規模改革)
- ASP方式をやめ、**医療機関の実際の購入価格(TAC)**をもとに償還額を長期間固定(例:12か月)。
- バイオシミラー使用による節約分を患者・医療機関・支払者で共有するインセンティブ設計。
影響
- 支払者:参照製品より安価で医療費節減
- 医療機関:償還不足リスクが低下
- メーカー:価格が安定し市場が維持しやすい
- 患者:自己負担減(例:20%コイン保険の免除も可能)
ただし、製造コストが急騰した場合などは償還不足が生じる可能性あり。
結論: ASP制度は本来、医療機関に公平な償還を提供するためのものだったが、バイオシミラーの競争モデルには適合していない。
今のままでは、
- 医療機関の財務悪化
- メーカー撤退
- イノベーション減速
といったリスクが高い。
どの改革もASP下落のスピードを抑え、バイオシミラー市場を維持することが目的だが、結果として医療費や患者負担が増える可能性もある。それでも、参照製品よりは低コストで、ジェネリック市場に近い機能を期待できる。
ニュースソース
Ryan N. Hansen (Department of Pharmacy, and faculty in the CHOICE Institute, School of Pharmacy, University of Washington), et al. : Reforming Average Sales Price-Based Reimbursement For Infused Biosimilars
Health Affairs Forefront, November 3, 2025, 10.1377/forefront.20251030.152901
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