【NEJM論説】バイオ医薬品とメディケアの価格交渉

米国メディケアにおけるバイオ医薬品(biologic drugs)の支出増加と、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)による薬価交渉制度の扱いの違いについて解説。特に、バイオ医薬品が小分子薬よりも長期間、価格交渉から保護されている点と、バイオシミラーの参入見込みによる交渉遅延制度の課題を指摘している。以下、主要ポイント。

  1. メディケア支出におけるバイオ医薬品の増加
  • Part B(医療機関で投与される薬)での上位20薬剤中17品目がバイオ医薬品。
  • 価格は小分子薬に比べて下落幅が小さい(バイオシミラー導入後でも18〜50%程度の減少に留まる)。
  1. インフレ抑制法(IRA)の枠組み
  • メディケアが特定薬剤の価格を交渉可能にする制度を導入(初回交渉は2026年開始予定)。
  • しかし、バイオ医薬品は承認から11年後に交渉対象(小分子薬は7年後)。
  • 交渉価格の適用は選定後2年後から(実際の適用は2028年)。
  1. バイオシミラー開発を理由とする交渉遅延
  • バイオシミラーが2年以内に上市される「高い見込み」がある場合、オリジネータ薬の交渉を最長2年間遅延可能。
  • ただし、次のような制限もある:
    • バイオシミラー承認から1年以上経過している場合は不可。
    • オリジネータ薬が15年以上市場にある場合も不可。
    • 同一企業が両方を製造している場合も不可。
  • それでも、この仕組みが企業による戦略的な交渉回避に使われる懸念がある。
  1. 交渉対象選定の基準の課題
  • Part Bでは「実勢販売価格(平均販売価格)」を基準とするため、Part D(処方薬)よりも支出額が小さく見え、選定されにくい。
  • メディケア・アドバンテージ(民間委託型メディケア)の分を含めるかどうかも不明確。
  • 組み合わせ製剤(例:ダラツムマブ+ヒアルロニダーゼ)は、改良製剤として別扱いとなり、交渉が10年以上遅れる。
  1. 政策提言
  • バイオシミラーの遅延制度が競争阻害的に運用されないよう監視する必要。
  • バイオシミラー使用促進のため、リファレンス製剤とバイオシミラーの「統合支払い率(blended rate)」を導入する提案。
  • 大統領令で示されたように、小分子薬とバイオ医薬品の交渉開始時期の格差を是正すべき。
  • 改良製剤(組合せ製剤)は承認5年後に交渉対象化できるよう法改正を検討。

🔹結論

メディケアによる薬価交渉制度は、バイオ医薬品の支出抑制に有効な可能性があるが、
現行の制度設計では、バイオ医薬品が過度に保護され、バイオシミラー導入遅延条項が企業に悪用されうるという課題が残る。そのため、公平な交渉ルール整備と、バイオシミラー普及促進策の両立が必要とされている。

 

ニュースソース

Thomas J. Hwang (ancer Innovation and Regulation Initiative, Lank Center for Genitourinary Oncology, Dana–Farber Cancer Institute, Boston), et al.: Biologic Drugs and Medicare Price Negotiation.
N Engl J Med 2025;393:6-9 DOI: 10.1056/NEJMp2413686 VOL. 393 NO. 1

 

2025年11月1日
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