【論文】処方薬価格に関するトランプ大統領の大統領令: 根拠は何か

Health Affairs Forefront、2025年10月14日記事。

2025年5月、トランプ大統領は「最恵国価格(Most Favored Nation, MFN)」方式を導入する大統領令(Executive Order:EO)を出し、米国の処方薬価格を他の先進国の最安値に近づけることを目指している。記事では、2025年4月15日と5月12日の2つの大統領令を取り上げ、既存のエビデンス(実証研究・政策分析)から、その実効性やリスク、実現可能性を検討している。以下は記事で紹介されている大統領令の主な内容。

First Executive Order(2025年4月15日)

1. Improving The Medicare Price Negotiation Program(メディケア薬価交渉制度の改善)
インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)に基づくメディケア薬価交渉制度の適格基準を変更する提案を示している。具体的には、小分子医薬品の交渉適用までの期間を現行の 9年から13年 に延長し、バイオ医薬品と同一の13年に揃える案である。

2. Testing Medicare Payment Models For High-Cost Drugs(高額薬向けメディケア支払モデルの試行)
極めて高額な薬剤(“ultra-expensive drugs”)のコストを抑制するための新たな支払モデルの開発と試験を命じている。

3. Accounting For Acquisition Costs Of Physician-Administered Drugs(医師投与薬の取得コストの反映)
病院外来部門(HOPD)の実際の薬剤取得コストを調査し、メディケア償還額を実コストに近づけるよう求めている。

4. Strengthening Medicaid Drug Rebates And Payment Models(メディケイド薬リベート・支払モデルの強化)
メディケイド薬価制度におけるリベート計算・高額薬支払・革新モデルを見直すよう指示している。

5. Ensuring Affordability Of Epinephrine And Insulin(エピネフリンとインスリンの手頃な価格確保)
公衆衛生法に基づく助成を受ける保健センターに対し、取得コスト以下で低所得者へ提供することを義務付けている。

6. Addressing Problematic Practices Of Prescription Drug Intermediaries(処方薬中間業者の問題行為への対処)
薬剤流通の中間業者(PBM等)の非透明な取引慣行の是正を目的とする。

7. Accelerating Competition And Combating Anticompetitive Practices(競争促進と反競争的行為の是正)
製薬業界の競争阻害行為を調査・是正する報告書作成を命令。主な提案は以下の通り。

  • 特許満了情報の透明化によるジェネリック参入促進
  • 「ペイ・フォー・ディレイ」契約や企業買収に対するFTC監視強化
  • エバーグリーニング(微修正による特許延長)の抑制
  • ジェネリック承認手数料の引下げ
  • オーソライズド・ジェネリックの180日独占期間内発売の禁止
  • 企業合併への対応:治療領域が重複する合併は原則反競争的と見なし、再審査・分割を要求。また、「キラーアクイジション(競合を消す買収)」は禁止対象とする。
  • バイオシミラー促進策
    • 生物製剤の4文字サフィックスの撤廃で混乱を防止。
    • 十分な分析的同等性が確認された場合、臨床試験要件の緩和を提案。
    • 欧州の成功例を参照し、承認率向上を目指す。

8. Streamlining Prescription Drug Importation(医薬品輸入の効率化)
各州による薬品輸入プログラムの円滑化を求める。フロリダ州のカナダ輸入計画が試験事例として紹介される。

9. Promoting Site-Neutral Payment(サイト・ニュートラル支払の推進)
医療提供場所による支払格差の是正を目的とする。現行では病院外来(HOPD)と診療所で薬剤の投与手数料に差があり、施設移行インセンティブを生む。

Second Executive Order(5月12日。最恵国価格:MFN を軸とする措置)

米国と他の先進国の薬価格差の是正を狙い、Most-Favored-Nation(MFN)価格(他の先進国の最安値を上限)を導入する方針である。
まずは製薬企業の自主的遵守を前提としつつ、不履行時の連邦対応(規則制定、再輸入の活用、反競争調査、FDA 承認の撤回等)を明示する。

 

論文では、大統領令で示されている提案には、広範なエビデンスが存在するとしている。既存のエビデンスの中には、大統領令の提案を修正することで効果を最大化できる可能性を示唆するものもある。最後に、いくつかのエビデンスは、潜在的なインパクトが小さいアイデアと大きいアイデアを区別するのに役立つとしている。

(坂巻コメント:7.のみ少し詳しくまとめた。トランプ大統領よりの論調と感ずるが、トランプ氏のこれまでの行動から予想すると、各取り組みは実際に導入される可能性が高いのではなかろうか。読み応えのある論文。)

 

ニュースソース

Jeromie Ballreich (Johns Hopkins Bloomberg school of public health), et al. : President Trump’s Executive Orders On Prescription Drug Prices: What The Evidence Says.
Health Affairs Forefront,  10.1377/forefront.20251003.79577
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/president-trump-s-executive-orders-prescription-drug-prices-evidence-says (オープンアクセス)

2025年10月15日
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