米国FDA、初のミトコンドリア病治療薬を承認

米国医薬食品局(Food and Drug Administration:FDA) は、2025年9月19日、体重30kg以上の患者を対象としたバース症候群Barth Syndromeの最初の治療薬として、Forzinity(elamipretide)注射剤の早期承認を承認した1,2)。

バース症候群は、ミトコンドリア(細胞のエネルギー産生部分)のまれで重篤な、生命を脅かす疾患。Forzinityは、ミトコンドリアの内側に結合することによって作用し、ミトコンドリアの構造と機能を改善する。Forzinityは1日1回皮下投与される。臨床試験で確認された最も一般的な副作用は、軽度から中等度の注射部位反応であった。Forzinityに関連する重篤な反応も報告されている。

この申請は優先審査を受け、Forzinityは希少小児疾患の指定を受けた。FDAはForzinityの早期承認と希少小児疾患優先審査券をStealth Biotherapeutics Incに付与したとする。

本記事作成時点で、米国においても未発売で、金額は不明(日本では、研究用試薬として入手でき、1㌘346,500円)。

本承認を取り上げたScience 誌記事では、Forzinityのわずか前には、FDAが別のミトコンドリア病、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症(pyruvate dehydrogenase complex deficiency :PDCD)の治療薬を却下したことを紹介しつつ、一方で、チミジンキナーゼ2欠損症(thymidine kinase 2 deficiency:TK2d)を始め、7つのミトコンドリア関連疾患治療法の臨床試験が実施中で、ミトコンドリア関連疾患の開発が進んでいるとしている。

記事では、ミトコンドリア病は数多くあるが、どれもまれである。バース症候群は米国で約150人が罹患しており、TK2dはさらに少なく、世界で約250人しか罹患していない。ミトコンドリア病の原因となる最も一般的な突然変異は、オルガネラがタンパク質を合成するのに必要な遺伝子の欠陥であり、アメリカ、ヨーロッパ、日本で約50,000人が罹患している。

その一方で、この領域の治療法開発が注目される理由には、神経変性疾患、心臓病、糖尿病など、より一般的な疾患や加齢でもミトコンドリアが機能不全に陥ることがあり、「ミトコンドリア変異に対する治療法を開発すれば、より一般的な、つまりより儲かる疾患にも効くかもしれないと賭けている企業もある」としている3)。

 

バース症候群については、難病情報センターでは、メチルグルタコン酸尿症(指定難病324)の一つで、「メチルグルタコン酸尿症Ⅱ型」とされる。難病情報センターでは以下のように説明されている4)。

メチルグルタコン酸尿症Ⅱ型 バース(Barth)症候群

この病気では細胞内の発電所であるミトコンドリアが障害されています。そのため体の中で一番エネルギーを使用する心臓が弱り、心不全や脈が乱れる不整脈などが起きます。このほか細菌と戦う白血球が減ってしまい敗血症などの重い感染症になることもあります。体の筋肉もエネルギー不足で力が弱くなり、体の動きがうまくいかないこともあります。背が伸びず他の人よりかなり背が低くなることもあります。
どのような仕組みでこの病気の人の尿にメチルグルタコン酸が多量に排泄されるかは分かっていません。

 

  1. Food and Drug Administration: FDA Grants Accelerated Approval to First Treatment for Barth Syndrome.
    https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-grants-accelerated-approval-first-treatment-barth-syndrome
  2. Stealth Biotherapeutics: Stealth BioTherapeutics Announces FDA Accelerated Approval of FORZINITY™ (elamipretide) injection, the First Therapy for Progressive and Life-limiting Ultra-rare Genetic Disease Barth Syndrome.
    https://stealthbt.com/stealth-biotherapeutics-announces-fda-accelerated-approval-of-forzinity-elamipretide-hcl-the-first-therapy-for-progressive-and-life-limiting-ultra-rare-genetic-disease-barth-syndrome/
  3. Mitch Leslie: First approved drug for mitochondrial disease could pave way for more treatments. Science, Vol 390, Issue 6769
    https://www.science.org/content/article/first-approved-drug-mitochondrial-disease-could-pave-way-more-treatments?utm_source=sfmc&utm_medium=email&utm_content=alert&utm_campaign=DailyLatestNews&et_rid=79567821&et_cid=5760024
  4. 難病情報センター:メチルグルタコン酸尿症(指定難病324)https://www.nanbyou.or.jp/entry/5449

 

2025年10月15日
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