バイオシミラー製造の国内回帰は、弾力的なサプライチェーンを脅かす可能性

STAT、2025年10月6日論説記事。バイオシミラーに関わる部分を抜粋・要約。

バイオシミラー企業は、世界中に広がる効率的な製造・供給網を運営している。原材料の調達から原薬・製剤の製造、そして最終製剤の包装に至るまで、すべての工程が最適化されている。バイオシミラー医薬品は他の生物製剤と同様に、製造コストが高く、特殊な設備やインフラへの多額の投資を必要とする。そのため企業は、コスト効率と品質管理を両立させながら、長期的に安定して運営できる製造拠点を戦略的に配置する必要がある。

こうした体制には、ブラジル、中国、インド、イスラエルといった新興経済圏から原材料を調達する一方で、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、韓国といった規制が厳しくコストの高い地域に主要な製造拠点を置くことが含まれる。これらの国で、安全かつ高品質の生物製剤を生産できる優れた施設を建設するには、時間もコストもかかる複雑なプロセスを経なければならない。したがって、バイオシミラーに対してこのような大規模投資を行うためには、それに見合う市場シェアを確保できるよう、公正で競争力のある価格設定が不可欠となる。

(中略)

一方で、先発医薬品に加え、複数のバイオシミラーが存在することによって、医療現場における選択肢の幅が広がり、アメリカの医薬品供給網はより強靭(レジリエント)になっている。しかし、地政学的な緊張が高まる中で、政策判断や国際関係の変化が突発的に起これば、重大な影響をもたらす可能性がある。複数の国での製品アクセスが阻まれ、場合によっては業界全体の存続が危うくなるおそれもある。

バイオシミラーの供給網が混乱すれば、生物製剤全体のエコシステムにも深刻な影響が及ぶ。医療システム、保険者、医師の間で期待されているコスト削減の機会が失われるだけでなく、医薬品不足によって患者の健康が直接的に脅かされることになる。

 

坂巻コメント:日本でも、バイオシミラーの国内製造を促進するため、令和26年度の概算要求において製造設備整備費として5億6900万円が計上されている。
一方、世界的にはバイオシミラーの製造技術が急速に進歩しており、記事でも指摘されているように、過度な国内集中はかえってサプライチェーンの弾力性(レジリエンス)を損なうリスクがある。
国内でバイオシミラー製造を成功に導くためには、安定供給の確保と設備稼働率の維持を両立させることが不可欠であり、ビジネス面での課題も依然として大きい。
さらには、日本のバイオシミラー市場における不確実性の低減が急務である。薬価の引き下げは企業の責務として進める一方で、薬価差益を前提とした流通構造の見直しも求められる。

 

ニュースソース

STAT: Onshoring could threaten the resilient supply chain for biosimilars and generics. (By Gillian Woollett, Oct. 6, 2025)
https://www.statnews.com/2025/10/06/onshoring-tariffs-pharmaceuticals-biosimilars-generics-efficiency/?utm_campaign=daily_recap&utm_mediu%E2%80%A6(サブスクリプション)

2025年10月14日
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