STAT、2025年10月6日記事から。
欧州連合(EU)は、数年にわたる準備を経て、数十年ぶりの大規模な医薬品政策改革の最終段階に近づいている。この改革は、新薬の承認・販売スピードから製薬企業の投資判断まで、EU医薬品産業の構造を大きく変える可能性を持つ。改革の主な目的は、医薬品アクセスの公平化と産業競争力の強化である。
○医薬品アクセスの地域格差是正
現在、新薬はドイツ・フランスなどの富裕国で先行販売され、ルーマニアなど小規模・低所得国では数年遅れで上市される。原因は、各国での薬価・償還交渉の遅延や制度の複雑さにある。新制度では、より多くの加盟国で早期に販売を開始する企業にインセンティブを与える仕組みを検討している。
○産業競争力の強化
同時に、審査の迅速化や行政手続きの簡素化によって、EUを製薬企業にとってより魅力的な市場にする狙いもある。
特に、最大の争点は、市場独占期間(データ保護期間)の短縮であるが、各機関の提案は、以下のように鼎立がみられる。
- 欧州委員会(基本保護期間:8年):(延長条件例:EU内治験実施・全加盟国販売などで加算可能)
- 欧州議会(5年):同様にインセンティブで加算
- 欧州理事会(9年):最大でも現行11年を超えない範囲で延長可
企業は特定条件を満たせば追加の保護期間(1〜2年)を獲得できるが、欧州委員会案では「承認から2年以内に全27か国で上市すれば+2年」とする条件が「非現実的」との批判もある。議会・理事会案では、「加盟国が求めたら企業は償還申請を義務付けられる」など、アクセスを義務化する方向性を採用している。
一方で、トランプ前大統領の「最恵国(Most-Favored Nation)価格政策」構想が背景に影響。これは「米国薬価を他の先進国水準に連動させる」というもので、製薬企業にとっては欧州での低価格設定が米国薬価引き下げにつながるリスクを意味する。そのため企業は、欧州との価格交渉で強硬姿勢を取る可能性があり、結果として、一部の製品が特定国で上市されないケースが増える懸念もある。この動きは、EUの医薬品アクセス格差是正という政策目標を逆に難しくする可能性があるとする。
ニュースソース
STAT: With much to win (or lose), drugmakers and European officials bear down on major policy overhaul. (By Andrew Joseph, Oct. 6, 2025)
https://www.statnews.com/2025/10/06/pharma-policy-europe-drugmakers-patients/?utm_campaign=the_readout&utm_medium=email&_hsenc=p%E2%80%A6 (サブスクリプション)