米国ICER、HTAにおけるベネフィットの定義についての新たな提案

米国の非営利組織Institute for Clinical and Economic Review(ICER)は、2025年10月9日、医療経済評価において治療ベネフィット評価に焦点を当てた報告書草案を発表した。

米国の臨床経済評価研究所(Institute for Clinical and Economic Review:ICER)、カナダ医薬品庁(Canada’s Drug Agency:CDA-AMC)、英国の国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)は、医療経済手法諮問委員会(Health Economics Methods Advisory:HEMA)を設立し、経済評価の新しい方法や手順について独立した批判的な指針を示すこととした。本報告書はHEMAの最初の成果であり、経済評価で考慮される便益を拡張する可能性に焦点を当てているとする。

本報告書は、HTA組織が、純費用と、便益を測る尺度としてのQALY(質調整生存年)以外の「新しい価値要素」を経済評価に取り込むべきかどうか、また取り込むとすればどのように行うべきかを考えるための原則を示し、それを実際に当てはめて検討している。

本報告の目的は以下の3つとしている。

  1. HTA組織が便益の測定を拡張または修正する際の判断を支える原則を定義すること。
  2. HTAにおける経済評価で便益を拡張・修正する最近の提案を評価すること。
  3. それらの提案に対して原則を適用し、HTA組織への推奨を示すこと。

また、以下の3点を提示された原則としている。

  1. 関連性:追加される便益は、HTA組織の責任・目的・意思決定に関連していなければならない。
    ここで提案されている新しい価値要素は、範囲内(in-scope)と範囲外(out-of-scope)に分けられる。範囲内の要素は、限られた資源の中で意思決定者が達成を目指す目的の一部となる便益である。一方、範囲外とされる要素は便益の定義と無関係なものであり(例:動的価格設定)、将来の検討課題となる。
  2. 価値付け:便益は適切に集約され、特定の個人ではなく一般人口の平均的な嗜好を反映し、二重計算を避けなければならない。
    2つの規範的立場に関わる原則を強調している。1つは、便益を「個人」ではなく「集団」の健康として捉えるという立場である。もう1つは、便益を個人ごとではなく、代表的な公衆の平均的嗜好に基づき集約するという立場である。これは、生存と生活の質など異なる健康の次元の間でのトレードオフを定量的に表現するために不可欠である。
  3. 機会費用:追加便益は、より高価な介入を資金提供することで他の医療サービスから失われる便益(機会費用)を必ず考慮する必要がある。
    新しい価値要素を経済評価に取り込む際には、機会費用の考慮が不可欠であるが、議論では軽視されがちである。また、公平性の重視(重症度や公平な寿命の概念など)は有用だが、重症患者への重み付けは機会費用とのバランスに注意が必要である。さらに、評価の範囲を生産性や教育といった社会的便益に広げる場合には、部門ごとの機会費用や成果間のトレードオフを示す追加的証拠が求められる。

推奨事項

  • 本報告は、追加的または代替的な便益指標を経済評価に取り込むかどうかを判断するための指針を示している。その推奨は以下のとおりである。
  • 経済評価の便益を拡張する場合、HTA組織は本報告で示した原則に照らして検討すべきである。
  • 機会費用を反映する証拠がない限り、追加的便益を routinized に組み込むべきではない。
  • HTA内での熟議過程は、機会費用を考慮せずに便益を追加する抜け道として使ってはならない。
  • 平均的な公衆の嗜好を基盤とする立場をとるHTA組織は、同時に個別患者の嗜好を取り込むべきではない。
  • 重症度などの修正係数を導入する場合、明確な規範的根拠と測定方法を提示すべきである。
  • 個人のリスク態度を取り入れるには追加研究が必要であり、重症度重みとの二重計算リスクに留意すべきである。
  • 分配的費用対効果分析は公平性を組み込む枠組みを提供するが、用いる場合はすべての評価に適用すべきである。
  • ケア過程に関する特定の便益(例:予後情報の価値)を含める場合は、QALYとの重複を避けるための研究が必要である。
  • 経済評価の視点を広げ、経済全体や他分野の成果を含める場合には、部門ごとの機会費用とアウトカム間のトレードオフを明示する追加証拠が必要である。

 

ニュースソース

Health Economics Methods Advisor: Defining Appropriate Benefits for Economic Evaluation of Health Care Technologies.
https://hemamethods.org/wp-content/uploads/2025/10/HEMA-Draft-Report_For-Publication_100925.pdf

2025年10月10日
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