New England Journal of Medicine(NEJM)2025年10月4日公開論文。医薬品卸売業者が「見えない中間者」として、米国医療市場で急速に影響力を強めている現状とリスクを警告している。
米国では、UnitedHealth GroupやCVS Healthといった巨大ヘルスケア企業が薬局・診療所を買収し、垂直統合を進めている一方で、医薬品ベネフィットマネージャー(Pharmacy Benefit Manager:PBM)の不透明な商慣行は批判されてきたが、医薬品卸売業者の役割はこれまで大きく注目されてこなかった。
現在の卸売市場の構造は、McKesson、Cardinal Health、Cencora、旧AmerisourceBergen)の3社で市場の98%を支配しており、これらは単なる卸にとどまらず、グループ購買組織(Group Purchasing Organization:GPO)、プライベートブランド医薬品メーカー、専門薬局、データ会社など多角的に展開している。この3社は、McKessonが腫瘍診療ネットワークU.S. Oncologyを買収、Cardinal Healthが泌尿器科や消化器科の大規模ネットワークを買収、Cencoraが網膜専門医ネットワークを取得している他、プライベート・エクイティからの転売による専門診療所の買収が眼科や泌尿器科にも拡大している。
効率化の可能性として、交渉力による仕入れ価格の低下、サプライチェーン簡素化などのメリットがある一方、競争減少により価格上昇や診療所への高価格設定、臨床の自律性低下というリスクもある。
反トラスト法、価格差別禁止法、反キックバック法、スターク法(自己紹介規制)などに抵触する可能性、特に医療サービス組織(Management Services Organization :MSO)による診療所支配は、医療行為への企業介入の禁止(Corporate Practice of Medicine doctrine:CPMD prohibition)と抵触するリスクなど、法的・規制上の懸念もある。州によってはPBMの薬局所有を禁止する法律もあり、卸売業者への規制強化の可能性がある。
今後、高額薬剤が使われる専門分野では、卸主導の統合がさらに進む可能性が高い。しかしこの動きはコスト増加や医師の自律性低下を招き、規制当局の介入が求められる。
ニュースソース
Hayden Rooke-Ley (Center for Advancing Health Policy through Research, Brown University School of Public Health, Providence, RI): Pharmaceutical Wholesalers — Under-the-Radar Middlemen?
Published October 4, 2025 DOI: 10.1056/NEJMp2507855 (サブスクリプション)