米国医薬食品局(Food and Drug Administration:FDA)は、後発医薬品(generic drugs)の開発および承認プロセスを支える規制科学(regulatory science)における研究優先課題(research priorities)を明示した。これらの課題は、将来の研究資金配分や産業界との協働の指針となるものである。レポートに示される8項目は以下の通り(下に表としてまとめた)。
- 不純物(ニトロサミン等)対策:有害不純物の検出・予測・許容基準設定を行い、より安全な製造・品質管理を確立する。
- 複雑な有効成分の同等性評価:オリゴヌクレオチドやペプチドなど、構造が複雑な成分の分析・免疫原性評価法を改良・標準化する。
- 複雑製剤形態の同等性評価:長時間作用型注射・インプラントなどの放出機構や品質属性を解明し、効率的に BE(生物学的同等性)を示す。
- 複雑投与経路の同等性評価:吸入、局所、鼻腔、眼科用製剤などにおいて、in vitro と in vivo を結びつける新たな BE アプローチを開発する。
- 薬物-医療機器複合製品の同等性評価:デバイス差異の影響を解析し、ヒューマンファクターや機器性能比較による合理的な同等性判断法を確立する。
- 経口・注射剤の BE 評価効率化: 比較的標準的な経口・注射剤でも、溶出試験・モデリング・試験設計の工夫により BE 試験を効率化する。
- モデル統合証拠(MIE)の活用:in silico モデルと実験データを統合し、仮想 BE 試験などを通じて同等性実証を効率化する。
- AI/機械学習の利用拡大:AI/ML を規制科学に導入し、提出資料の評価、データ解析、供給・代替の影響評価を効率化・高度化する。
(坂巻コメント:これをみても、日本厚労省のジェネリック産業政策:少量多品目対策がいかに愚劣かがわかる。)
ニュースソース
Food and Drug Administration: Generic Drug User Fee Amendments (GDUFA) Science and Research Priority Initiatives for Fiscal Year (FY) 2026.
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.fda.gov/media/189033/download?attachment
領域番号 | 領域名 | 目的概要 | 具体的研究課題(抜粋・要旨) |
1. Methods to Address Impurities such as Nitrosamines | ニトロサミン等不純物に対応する手法の開発 | 原薬・製剤中に発生し得るニトロサミン類などの有害不純物を検出・予測・制御する方法を確立。 | – モデリング/シミュレーションを用いた BCS クラス IV 薬物の改良による不純物低減 – 不純物および前駆体の識別・定量化のための分析法(複数手法併用を含む) – API や賦形剤などからの形成メカニズムの理解(官能基反応性、賦形剤中の不純物の役割など) – 不純物(ニトロサミン、NDSRIs 等)の受入摂取量限界(acceptable intake limits)をリスク評価手法(in vitro/in vivo、in silico モデリング、変異原性評価などを含む)により設定 |
2. Equivalence Approaches for Complex Active Ingredients | 複雑な有効成分の同等性手法強化 | オリゴヌクレオチド等、分子構造が複雑な成分について、同等性/同一性(sameness)を裏付ける分析・評価法を改良・標準化。 | – オリゴヌクレオチド成分およびそれに付随する不純物を特徴付けるための新規分析法の開発および既存法の改良・標準化 – 合成型または組換え型ペプチド/オリゴヌクレオチド製品における免疫原性リスク評価法(不純物影響も含む)の in vitro 法の改善・標準化 |
3. Equivalence Approaches for Complex Dosage Forms & Formulations | 複雑製剤形態(製剤設計が複雑なもの)への同等性手法強化 | 長時間作用型注射・インプラント等、複雑な製剤形態に対する in vitro/in vivo 同等性評価アプローチを効率化。 | – 長時間作用型注射・インプラント等(LAI:Long-Acting Injectable/Insertable/Implantable)の放出機構、重要品質属性(CQA)およびそれを測定する試験法の解明と in vivo 性能予測 – 高分子成分(ポリマー)や複雑な配合成分を含む製剤の構成同一性(compositional sameness)を支える評価ツールの改善 |
4. Equivalence Approaches for Complex Routes of Delivery | 複雑投与経路(吸入、局所、鼻腔など)への同等性手法強化 | 投与経路や局所作用性のある製剤について、in vitro–in vivo 相関やモデル構築、失敗モード(failure mode)理解を通じて、効率的な同等性評価法を確立。 | – 吸入・鼻腔投与等製剤について、in vitro 特性化法と最適な in vivo 薬物動態(PK)試験設計・モデリング法を導入し、臨床エンドポイント BE 試験の代替を目指す – 皮膚、眼など局所適用型製剤の同等性評価法(配合差異がある場合も含む) – 透過試験(in vitro permeation test, IVPT)の設計とデータ解析手法を改善し、局所製剤の BE 支援手法を強化 |
5. Equivalence Approaches for Complex Drug-Device Combination Products | 薬物-医療機器複合製品の同等性評価 | ジェネリック複合製品が対象製品と構造・ユーザーインターフェースなどで差異を持つ場合の影響を評価し、設計差異の許容性や安全性を論証。 | – 比較的利用者操作に関わるヒューマンファクター試験の代替手法(解析的・リスク評価アプローチ)の改善 – in vitro による装置性能比較の基準設定(例:パッチ型送達システム、トランスダーマル装置、注入器具、吸入器など) – より環境配慮型の推進剤使用への切替支援手法(ジェネリック製品がより環境配慮型推進剤を採用する際の移行手法) |
6. Efficiency of BE Approaches for Oral and Parenteral Products | 経口・注射用製剤の BE 評価効率化 | 比較的複雑性の低い経口・注射剤に対しても、製剤・賦形剤成分の影響、溶解挙動・相関性(in vitro/in vivo)モデル、適切な生物学的同等性試験設計などを最適化。 | – in vitro 溶出試験ツールと生理学的 PK モデル(PBPK)を活用して、食品効果や製剤相互作用などのリスク要因を識別、グローバルな BE 手法の調和支援 – 経口複雑型製剤や高リスク即放出型製剤(アモルファス固体分散体など)、修飾放出型(modified release, MR)製剤の定量手法・賦形設計要因理解 – 注射剤・眼科用溶液剤における組成差異を許容できる BE 評価法の構築、特殊集団(小児、高齢者等)を対象とした BE 試験設計リスクモードの理解と緩和策 |
7. Model-Integrated Evidence (MIE) to Support BE Demonstrations | モデル統合証拠(モデルと in vitro/in vivo データ統合)による BE の支援 | in silico モデル、in vitro/in vivo データを統合し、仮想的 BE(virtual BE)等を構築して BE 試験の効率化・合理化を図る。 | – 複雑投与経路(吸入、局所、LAI など)薬物に対して、MIE を活用して BE を効率的に示すアプローチの進展 – モデル標準化、妥当性検証、受容性、再現性・再利用性を高めるための最良慣行(model master files 等)整備 – PK BE 試験の設計最適化(例:希薄サンプリング、適応デザイン、腫瘍薬等特殊製剤向け) |
8. Expand the Use of Artificial Intelligence (AI) / Machine Learning (ML) Tools | AI/機械学習ツール利用拡大 | 規制科学および後発医薬品開発プロセスに AI/ML を組み入れ、効率性・整合性向上を目指す。 | – 市販後代替投薬(generic substitution)の影響評価や公衆衛生インパクト評価における実データ(リアルワールドデータ)の活用改善 – FDA 情報・データと連携した定量モデル解析支援、規制評価プロセスの合理化支援ツールの開発 – ANDA 提出前チェック支援、提出後評価プロセスの効率化・品質向上支援 AI/ML ツール構築および信頼性向上策 |
2025年10月4日