米国の非営利組織Institute for Clinical and Economic Review(ICER)は、2025年9月2日、脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy:SMA) に対する複数の治療薬のエビデンスレポートを公表した。評価対象は以下の通り。
- Apitegromab:Scholar Rock Holdings
ミオスタチン前駆体の選択的阻害するモノクローナル抗体医薬、4週間ごとに静脈内投与、日本では未承認
- Nusinersen:Spinraza®, Biogen
生存運動ニューロン(survival motor neuron :SMN)遺伝子に対する抗センスオリゴヌクレオチド(核酸医薬)、髄腔内注射、日本での商品名、企業(以下同じ)は、スピンラザ注、バイオジェン・ジャパン
- Onasemnogene abeparvovec-xioi:Zolgensma®, Novartis
遺伝子治療、ゾルゲンスマ、ノバルティスファーマ
- Risdiplam:Evrysdi®, Genentech
RNAスプライシング修飾薬(経口薬)、エブリスディ、中外製薬
Apitegromab の評価と費用対効果
- 2歳から12歳の2型または3型SMA患者で、既にRisdiplamまたはNusinersenによる治療を受けている場合、本剤を追加投与しても得られる利益は小さかった。また、プラセボ投与群に比べ、本剤投与群で重篤な有害事象がほぼ2倍発生した。純健康便益は1つの研究に基づくものであり、アピテグロマブ群では重篤な有害事象が多かったため、純健康便益に関する確信度はせいぜい中程度である。この対象集団においては、追加療法なしと比較して同等または漸増的な便益をもたらすと判断されるが、長期使用による大幅な便益の可能性もあれば、純害の可能性も存在する(「有望だが決定的ではない」)。
- 年間35万ドルという仮定価格において、標準治療(NusinersenとRisdiplam)にApitegromabを追加した場合、増分費用は570万ドル増加し、生存期間は約9年、健康状態調整生存年(evLY)は約2.0年増加した。(等価生命年)をもたらした。家族効用を含む修正社会視点を用いた共同ベースケースを含む全ての感度分析・シナリオ分析において、増分費用対効果比率は従来の支払意思額閾値を上回った。
遺伝子治療(Onasemnogene abeparvovec)後のSMN標的療法についての評価
- 遺伝子治療への反応が不十分な患者に対するNusinersen追加投与試験(未発表、単独群試験)結果から、反復的な髄腔内処置は負担が大きく、稀ではあるが重篤な有害事象の可能性を伴うこと、不確実性が大きいことを考慮すると、追加治療なしと比較して、反復髄腔内注射によるわずかながらも可能性のある純有害性と、同程度からかなりの純有益性が中程度の確実性で存在すると判断された。
- 過去に遺伝子治療を受けた患者を対象としたRisdiplamの非盲検試験、症例シリーズ結果から、改善効果は潜在的に大きく、重大な有害事象は認められないが、正味便益の大きさは不確実性が大きい。追加治療なしと比較して、同等、小幅、あるいは大幅な正味健康便益がある可能性は中程度の確実性があると判断された。
SMAに対するSMN療法の比較有効性
- Risdiplam、Nusinersen、Onasemnogene abeparvovec3剤を直接比較した試験は存在しないが、これら3療法による無症状期治療の臨床的証拠を定性的に評価した結果、生存期間の延長、永続的人工呼吸の回避、運動発達段階の達成など、全ての療法に強い有益性の証拠が認められた。しかしながら、相互比較による純健康便益を推定するにはデータが不十分であると結論づけられた。
主な政策提言(日本未発売のApitegromabは除く)
- 製造元は、治療の患者中心の治療的価値と価格を整合させることで、全ての患者にとって手頃な価格と良好なアクセスを促進する価格設定を行うべきである。
- 遺伝子治療後のSMN指向療法、または併用療法は研究試験の枠組み内でのみ実施すべきである。
- 新生児スクリーニングで特定された無症状患者における第一選択療法について、無作為化試験を実施すべきである。これにより、3種類のSMN指向療法それぞれの比較優位性と欠点をより深く理解できる。
ニュースソース
Institute for Clinical and Economic Review: Institute for Clinical and Economic Review Publishes Final Evidence Report on Treatments for Spinal Muscular Atrophy.
https://icer.org/pressreleases/institute-for-clinical-and-economic-review-publishes-final-evidence-report-on-treatments-for-spinal-muscular-atrophy/
2025年9月3日