Nature Medicine 2025年8月27日論文。1999年から2021年までの860万件の論文を分析し、研究対象疾患と疾病負担(障害調整生存年=DALYs)を比較した研究。その結果、研究と疾病負担の整合性は改善傾向にあるが、米国の国際援助削減や国立衛生研究所(NIH)の国際共同研究への規制強化が進めば、その進展が失われる可能性があると警告している。試算では、今後20年間に米国が国外研究者への資金提供を停止すれば、過去20年で達成した進歩の半分が失われ、回復には10年かかると見込まれている。
医療研究において、長年「世界人口の大多数を苦しめる病気に比べ、研究資金や時間がごく一部しか割かれていない」という不均衡が指摘されてきた。1990年代以降、この現象は「10/90ギャップ」(世界の疾病負担の90%を占める病気に対して、研究資金の10%しか投入されていないこと)と呼ばれてきたが、近年の研究によれば、この格差は過去20年で半減している。ただし、その改善は意図的な政策ではなく、慢性疾患が途上国を含め世界全体で増加したために研究対象が広がったことによるとされる。
また、医療研究の国際的な資金供給が米国に過度に依存している脆弱性が指摘されており、より多くの国や国際機関が役割を担う必要があるする。しかし、現実には各国がナショナリズムやポピュリズムの影響で国際協力から後退しており、研究の優先順位を国際的に共有し、データを広く利用可能にするという提案は政治的に実現が難しい状況にある。
結論として、疾病負担に応じて研究資源を配分することの重要性は広く認識されているものの、現下の国際政治環境では明確な解決策を見出すのは困難であるとされている。
ニュースソース
Leo Schmallenbach, et al. : Global distribution of research efforts, disease burden, and impact of US public funding withdrawal.
Nature Medicine (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-025-03923-0