メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services:CMS)は現在、メディケア薬価交渉プログラムに基づいて薬価を設定している。しかし、世界中の他の医療技術評価(HTA)機関とは異なり、CMSは薬価を設定する際に質調整生存年(QALY)を考慮しない。その理由は米国の法律に根ざしている。インフレ削減法Inflation Reduction Actは、高齢者や障害者を差別するような指標の使用を禁じている。QALYは、ベースラインのQOLが低い人(例えば障がい者)の延命に低い価値を与えるため、CMSは、QALYあたりのコスト分析を使用することはこの法律に反すると判断した。
National Council on Disability は、等価生存年数(equal value of life years:evLY)、総健康年数(health years in total:HYT)、一般化リスク調整費用対効果(generalized risk-adjusted cost-effectiveness:GRACE)などの代替案を提案している。論文では、これらの測定基準を簡単に要約し、よりよく知られたQALY測定基準と比較している。以下はそれぞれの測定基準のまとめ。
Equal Value of Life Years(evLY): 「弱者差別の回避」に焦点
- 概要:QALYに似ているが、生存延長分は常に「完全健康(重み=1)」として評価する。基礎的な生活の質には依存しない。
- 解決する課題:高齢者や慢性疾患・障害を持つ人の生存価値を過小評価しない。
- 限界:延命とQOL改善を同時に実現する治療の価値を過小評価する可能性がある。
Health Years in Total(HYT): 「延命+QOL改善の包括的評価」を目指す
- 概要:Basuら(2020)が提案。延命分は完全健康として評価しつつ、QOL改善も考慮するハイブリッド指標。
- 計算方法:HYT = 延命年数(完全健康) + 修正QALY(最大生存期間を基準に比較)。
- 解決する課題:evLYが無視した「延命期間におけるQOL改善」を評価可能にする。
- 限界:延命分を完全健康としつつQOL改善も加算するため、利益を二重計算するリスク。調整として、QALYより低い閾値を設定(例:$50,000/QALY ≈ $34,000/HYT)。
Generalized Risk-Adjusted Cost-Effectiveness(GRACE): 「公平性と不確実性」を明示的に考慮する
- 概要:疾病の重症度と治療効果の不確実性を加味する新しい枠組み。
- 計算方法:健康利益に加えて (1) 重症度が高い患者の改善を高く評価、(2) 効果の不確実性が大きい治療は低く評価。
- 解決する課題:従来のQALYやevLY/HYTが十分に考慮していなかった「公平性」や「エビデンスの確実性」を反映。
- 限界:概念と計算が複雑で普及度が低い。延命の評価は依然として直線的で、障害を持つ人の延命価値は相対的に低くなる。
ニュースソース
Jason Shafrin(Senior Managing Director, Center for Healthcare Economics and Policy, FTI Consulting Adjunct Professor, Mann School of Pharmacy, University of Southern California): Perspectives from the Healthcare Economist: CMS doesn’t consider QALYs – What’s a health economist to do?
Journal of Comparative Effectiveness Research, The Evidence Base Post, 27 August 2025
https://becarispublishing.com/digital-content/blog-post/perspectives-healthcare-economist-cms-doesn-t-consider-qalys-s-health-economist-do(無料会員登録が必要)