Health Affairs、2025年8月13日記事。
米国では製薬企業が特許の「藪(thickets)」と呼ばれる多数の周辺特許を取得し、ジェネリック・バイオシミラーの参入を遅らせる事例が問題となっている。アッヴィ社のヒュミラ(アダリムマブ)では105件以上の特許が取得され、その97件がデバイス、製剤、用途、製造方法など周辺領域を対象としていた。これを是正するため、近年、以下の2つの超党派法案と1つの米国特許商標庁(US Patent and Trademark Office:USPTO)の規則案(撤回済み)が提示された。以下は、記事で紹介している3つの法案と規則の内容、それぞれのPros/Consをまとめたもの。
① 負担可能な処方薬法(Affordable Prescriptions for Patients Act:APP法案)
- 対象:バイオ医薬品(biologics)のみ
- 米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)承認から4年以上経過後に出願された特許のうち、訴訟で主張できるのは最大20件に制限
- バイオシミラー申請者がバイオシミラー価格競争・革新法(Biologics Price Competition and Innovation Act:BPCIA)の手続を完了しない場合は適用除外
Pros
- 特定条件下で訴訟対象特許を制限し、過剰な特許訴訟を抑制
- 超党派の合意が得られやすく、既に米国上院を全会一致で通過
Cons
- 対象がバイオ医薬品に限定され、範囲が狭い
- 多くの特許は承認前または承認後4年以内に出願されるため、効果が限定的(2010〜2023年の訴訟対象12品目中3品目のみ影響)
- BPCIA非完了の主張で適用回避される可能性が高い(過去の訴訟の90%でこの主張があった)
② 藪除去による競争促進法(Eliminating Thickets to Increase Competition Act:ETHIC法案)
- 対象:バイオ医薬品および低分子医薬品(small-molecule drugs)
- 問題視:継続特許(continuation patents)=既存特許の明らかな変形で、ターミナルディスクレーマー(terminal disclaimer)付き
- 各「明らかな変形特許」群から訴訟可能なのは1件のみ
- 例:ヒュミラの場合、105件の特許と436件のターミナルディスクレーマーがあり、訴訟対象を最大24件に削減可能
Pros
- 適用範囲が広く、低分子薬にも有効
- 訴訟対象特許を大幅に削減(バイオ医薬品訴訟特許数を46%減)
- 真の発明(最も強い特許)は保護しつつ、参入障壁を低減
Cons
- 正規に許可された継続出願も対象となるため、企業側からの反発が予想される
- 最強特許は残るため、参入障壁を完全に除去できるわけではない
③ 米国特許商標庁規則案(USPTO Rule:撤回済み)
- 2024年に提案、同年12月に撤回(理由:リソース不足および権限の疑義)
- ある特許請求項が無効化された場合、その明らかな変形である関連特許群も自動的に行使不能とする
- 例:アダリムマブでは5件の無効化で特許数が45%減、レナリドミド(Revlimid)では70%減
Pros
- 少数特許の無効化で大幅な特許群縮小が可能
- 継続特許による特許水増しを抑止
- 自動適用のため追加のUSPTOリソース不要
Cons
- USPTO単独の権限では法的根拠に疑義(議会承認が必要)
- 撤回済みであり、立法化しない限り実現困難
以上から、記事では、APP法案は範囲が狭く、実質的な効果は限定的で「見せかけ改革」にとどまる恐れがあること。ETHIC法案とUSPTO規則案の立法化を組み合わせることで、既存の藪を削減し、将来の形成を防止可能で、これによりジェネリックおよびバイオシミラーの早期市場参入を促し、薬価引き下げと市場競争の促進が期待されるとしている。
ニュースソース
- Sean Tu(Professor of Law at West Virginia University College of Law), et al. : Combating Pharmaceutical Patent Thickets In The Trump Administration.
Health Affairs Forefront, August 13, 202510.1377/forefront.20250811.410352
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/combating-pharmaceutical-patent-thickets-trump-administration(オープンアクセス)
2025年8月14日