2025年7月28日オンライン掲載のJAMAに米国の薬価引き下げについていくつかの論説記事が公開されている。そのうちの二つについての要約。
薬価引き下げ-最恵国政策と価格交渉の比較
Amar H. Kelkar (Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, Massachusett), et al. :: Reducing Drug Prices—The Most Favored Nation Policy vs Price Negotiation. JAMA. Published online July 28, 2025. doi:10.1001/jama.2025.11614
2025年5月、トランプ政権は、米国の薬価を他国水準まで引き下げる最恵国待遇(most favored nation:MFN)政策を大統領令で発表した。これは、メディケア支払いを他国の最低価格に合わせることで薬価を抑制する試みである。しかし、法的・制度的障壁が多く、実現可能性は低い。
薬の国際輸入や製造業者への制裁措置も盛り込まれているが、安全性や競争法、行政権限の乱用に関する訴訟リスクを抱える。また、具体的な価格設定方法や対象薬の範囲が不明確であり、企業が海外価格を操作することで政策の実効性が損なわれる可能性もある。
さらに、希少疾患治療薬への影響や、価格引き下げによるイノベーションの抑制も懸念される。根本的な解決策は、メディケアにおける薬価交渉制度の強化であり、承認1年後から交渉開始するなど、ドイツ型の制度を参考にすることが望ましい。費用対効果評価を活用した透明な価格設定により、より公平かつ持続可能な制度が実現されるべきである。
米国の薬価引き下げ-海外ではなく国内に目を向けよ
Suhas Gondi (Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital, Boston, Massachusetts), et al. : Lowering Drug Prices in the US—Look Within, Not Abroad. JAMA. Published online July 28, 2025. doi:10.1001/jama.2025.12324
トランプ政権は処方薬価格を他国水準まで引き下げる最恵国待遇(MFN)政策を大統領令で発表したが、法的根拠や実効性には疑問が残る。米国の薬価が高い理由は、他国のような中央集権的な価格交渉機構やヘルス・テクノロジー・アセスメント(HTA)が存在しないことであり、単に他国の価格を基準とするだけでは根本的な解決にならない。
また、企業は他国でリスト価格を高く設定し、実際の価格を非公開とするなど価格操作が可能であり、国際価格基準は容易に形骸化し得る。さらに、医療費全体の構造や各国の価値観の違いにより、海外価格を米国に適用することは不適切である。
本質的な解決策は、米国独自のHTA制度を導入し、薬の臨床的有用性や費用対効果に基づいた価格交渉を行うことである。2022年のインフレーション抑制法(IRA)はその第一歩であるが、交渉対象となるまでの猶予期間や定量評価の欠如など課題も多い。価格の適正化には、より早期かつ透明な交渉制度の整備が求められる。