英国政府は、個別化医薬品の製造を患者の近くで行えるようにするための法整備を行い、製造の分散化を認める新たな規則「2025年ヒト用医薬品(改正)(モジュール製造およびポイント・オブ・ケア)規則the Human Medicines (Amendment) (Modular Manufacture and Point of Care) Regulations 2025」を可決した。この新しい法律はNHS10ヵ年計画の一部であり、7月5日にストリティングStreeting首相とキーア・スターマーKeir Starmer首相によって発表されたもので、2025年7月23日に施行される。
この制度は、英国医薬品・医療製品規制庁(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency:MHRA)により導入され、患者が病院、クリニック、あるいは自宅近くで個別化治療を受けられるようにするものである。従来のように遠隔地のラボで製造・輸送する必要がなくなることで、「静脈から静脈まで」の期間を短縮できるとされる。
対象には、細胞・遺伝子治療、組織工学的治療、3Dプリント医薬品、血液製剤、医療用ガスが含まれる。これにより、患者が治療を受けられるまでの時間を数か月単位で短縮できる可能性がある。CAR-T療法などの製造期間短縮により、治療を受ける前に病状が悪化してしまうケースや、薬剤の保存期間が短いために投与できなくなる事例も防ぐことができるとされる。移動式製造ユニットの活用も支援され、通院が困難な患者や免疫力が低下している患者にとって、安全かつ近接した治療環境が提供可能となる。
ニュースソース
- UK: Guidance Human medicines Modular Manufacture and Point of Care regulations 2025: Overview Published 10 June 2025.
https://www.gov.uk/government/publications/human-medicines-modular-manufacture-and-point-of-care-regulations-2025-overview/human-medicines-modular-manufacture-and-point-of-care-regulations-2025-overview - Pharmaceutical Technology: UK enacts law to decentralise manufacture of personalised treatments. (by Abigail Beaney, July 23 2025)
https://www.pharmaceutical-technology.com/newsletters/uk-enacts-law-decentralise-manufacture-personalised-treatments/?_hsenc=p2ANqtz-99Rma3FsP0zG9vV5lIxgHLi3357TYH75E-VV4rQlQRMVoAiNpRMaOATKSPRpDgCQiCjM-SBePNDWgUedVfuBzfrYvLoZbbuL1eTlGYVXkrW4nHbn4&_hsmi=113932992&utm_campaign=type3_Pharmaceutical%20Technology-market&utm_medium=email&utm_content=Spotlight_News_Article&utm_source=email_NS&cf-view&cf-view
以下は法律の序文(第1章)の翻訳
1.序文
POCガイダンス – 法規制
1.1 非常に短い使用期限を持つ医薬品など、新しいタイプの革新的な医薬品は、患者が診療を受ける場所(patient receives care:POC)で製造および供給されなければならない。これまでの医薬品関連法規は、非常に少数の製造拠点で製造され、世界中に供給されるタイプの医薬品を前提として整備されてきた。これに対し、POC医薬品は、使用期限が数秒から数分と極めて短いか、あるいは高度に個別化されたものであるため、患者がその場にいるときに、必要に応じて製造される必要がある。これは、英国国内だけでも何百もの拠点でPOC医薬品が製造されることを意味し得る。本ガイダンスは、これら革新的な製品の製造および供給を支援する新たな規制枠組みに関する指針を提供するものである。
1.2 この新たな規制枠組みは、現行の医薬品承認、治験、製造施設における規制遵守評価、安全性監視といった人用医薬品に関する制度を基盤とし、これらと連携して構築されている。POC医薬品においても、その安全性・品質・有効性は最優先事項であり続けなければならない。この枠組みは、血液製剤の管理に適用されている制度と類似しており、製品の特性に応じた柔軟性を持たせながらも、品質に対する規制管理を維持するものである。
1.3 本枠組みは、POCで製造される新たな医薬品の製造および供給の拡大を支援しつつ、工場ベースで製造される医薬品と同等の安全性、品質、有効性を確保することを目的としている。この革新的な医薬品に特化した規制枠組みは、新規治療法の利用可能性を高め、英国全体の患者に利益をもたらすものである。
1.4 POC医薬品は、以下を含む多くの医薬品分野にまたがるものである:
- 一部の先進的治療医薬品(advanced therapy medicinal products ATMP:細胞治療、遺伝子治療、組織工学製品)
- POCでのみ印刷可能な3Dプリント製品
- 血液製剤
- 医療用ガス
1.5 これまでの規制枠組みは、固定された工場ベースの製造拠点という「標準モデル」を前提としており、各医薬品について製造拠点は比較的少数であった。しかし現在、製造手段は拡大し、「分散型製造(distributed manufacture)」とも呼ばれる広範なオプションが存在するようになった。以下のような製造形態が含まれる:
- 医療現場での製造point of care manufacture:診療を受ける場所で医薬品を製造・供給するもの。これには在宅製造も含まれる。現在の技術の中には、在宅で医薬品の製造と分類される活動を可能とするものがあり、今後さらに増加する見込みである。これは、高度に進化した製造デバイスや、使用者である患者が供給された原材料とともに使用する機器を遠隔で制御する能力の向上により実現される。
- モジュール型製造modular manufacture:あらかじめ製造されたユニットであり、完全に自立したものもあれば、新設拠点の各種サービスと接続が必要なものもある。これらのユニットは、数か月あるいは数年ごとに別の工場や診療施設へと移動させることが可能である。
- 移動型製造mobile manufacture:必要に応じて臨床現場や軍の現場に展開可能な移動式マイクロファクトリーである。
1.6 本ガイダンスは、これらの分野を統括する新たな枠組みを支援するための英国医薬品関連法規の改正点について報告するものである。なお、こうした医薬品の供給に関するグッドプラクティス(good practices)の技術的側面については、他の文書で取り扱われており、本ガイダンスの範囲には含まれない。
1.7 「ライセンス当局licensing authority」は、「2012年人用医薬品規則」第6条 regulation 6 of the Human Medicines Regulations 2012に定義されている。ライセンス当局は、保健大臣および北アイルランドの保健大臣で構成される。慣例として、ライセンス当局の機能は英国全体において保健大臣が行使し、同大臣はMHRA(訳注:医薬品・医療製品規制庁)を通じてその機能を果たす。本ガイダンスにおいて「MHRA」と記される場合、それはライセンス当局を指すものである。