英国Specialist Pharmacy Service(SPS)は、2025年7月4日ラニビズマブ・バイオシミラーの患者用情報シートを公開した。
SPS(専門薬局サービス) は、NHSイングランドの委託を受けた専門家チームが、薬剤の最適利用(medicines optimisation)を幅広く支援する公的サービス。病院・コミュニティ薬局・診療所などへ、臨床的かつ実務的なアドバイスやガイダンスを提供し、医薬品の安全・効率的な利用を目指すもので、新たなバイオシミラーの発売が近くなると、医療現場での受け入れに関する情報提供を行う。また、ウェビナーも開催する。
バイオシミラーに関しても、各成分バイオシミラーが新たに発売されるタイミングで、使用準備、購買に関わるガバナンス、ライセンスとエビデンスをまとめた情報を公開している。ラニビズマブについては、2024年7月31日に更新しているが、患者情報シートが新たに公開された。
以下は、患者情報シートの日本語訳。
(重要な注意:本情報は、日本において患者向けのバイオシミラー情報提供のあり方の参考とするためのものであり、日本国内での薬事承認、保険適用の状況とは異なることに留意されたい。)
ラニビズマブ・バイオシミラー患者用情報シート
Ranibizumab biosimilar: Patient Information Sheet
ラニビズマブとは何か?
ラニビズマブは眼内に注射される医薬品であり、加齢黄斑変性症(wetAMD)や糖尿病性眼疾患など、網膜に影響を及ぼす眼疾患の治療に用いられる。血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする抗VEGF製剤の一種である。
ラニビズマブは何に使用されるか?
ラニビズマブによる治療を受けている、あるいは治療が推奨されている場合、眼内に通常より多量のVEGF(血管内皮増殖因子)が存在していることを意味する。VEGFが過剰になると、漏出性かつ異常な血管が形成される。
これらの血管から漏出した過剰な液体は眼内に蓄積し、網膜に腫脹や瘢痕を引き起こすことで視力に悪影響を及ぼす。
ラニビズマブはVEGFの作用を阻害することにより、異常血管の成長を防ぎ、既存の損傷した血管からの漏出を抑制する。ラニビズマブは眼内注射として複数回にわたり投与される。時間の経過とともに、これらの注射により異常血管の増殖および漏出を停止させることが可能となる。治療の目的は、腫脹を軽減し、視力の更なる低下を防ぐことであり、場合によっては視力の改善も期待される。注射の回数や頻度については、眼科医療専門職が判断する。
同様の疾患に処方される他の抗VEGF製剤との比較
抗VEGF製剤には、アフリベルセプト(アイリーア®)、ブロルシズマブ(ベオビュー®)、ベバシズマブ、ファリシマブ(バビーズモ®)などがある。どの製剤が最適であるかについては、眼科医療専門職が説明の上、適切な治療方針を提示する。
ラニビズマブの製造方法
ラニビズマブはバイオ医薬品である。バイオ医薬品とは、生きた細胞を用いて製造される、あるいはそれから誘導される医薬品である。バイオ医薬品は、英国では20年以上前から重篤な疾患の治療に使用され、世界中で多くの人々の生活を改善してきた。
英国におけるラニビズマブのバージョン
近年まで、ラニビズマブは一社のみが製造していたが、現在では他社によるバイオシミラー(バイオ後続品)のラニビズマブも存在する。
バイオシミラー・ラニビズマブとは何か?
バイオシミラー・ラニビズマブとは、元のラニビズマブ医薬品と非常によく似たコピー製剤である。世界保健機関(WHO)は、バイオシミラーを「品質、安全性、有効性において、元の承認製品と類似している医薬品」と定義している。
バイオシミラーは安全か?
英国で医薬品を規制する機関は医薬品・医療製品規制庁(MHRA)である。すべての医薬品は、品質、生物活性、安全性、有効性に関する厳格な試験を通過する必要がある。バイオシミラー医薬品も、元の製剤と同様にこれらの試験に合格している。
バイオシミラー・ラニビズマブによる治療が意味すること
ラニビズマブによる治療を新たに開始する場合、あるいは臨床医と合意の上でルセンティス®からバイオシミラー・ラニビズマブ(バイオビズ®、オンガビア®、リミラ®、またはジムルシ®)への変更を行う場合、同等の治療効果が期待できる。
英国国立医療技術評価機構(NICE)は医療に関するガイダンスを発行しており、NICEが元のバイオ医薬品を推奨している場合、その推奨はバイオシミラーにも同様に適用される。
他の抗VEGF製剤(アフリベルセプト、ブロルシズマブ、ベバシズマブなど)からバイオシミラー・ラニビズマブに治療を変更する場合、注射の頻度が変わる可能性はあるが、治療効果に差はないとされる。
すべてのラニビズマブ製剤には類似の副作用が報告されている。治療中に問題が発生した場合は、速やかに担当の眼科医、看護師、または薬剤師に報告すべきである。
バイオシミラーの利点
多くの元のバイオ医薬品は高額であり、治療対象となる疾患数は増加傾向にある。バイオシミラー医薬品は、元の製剤と非常に類似しており、品質、安全性、有効性は同等であるにもかかわらず、価格は安価である。
そのため、バイオシミラーを使用することにより、NHS(国民保健サービス)はより多くの患者に治療を提供することが可能となる。
さらなる相談先
ラニビズマブまたはバイオシミラーに関する追加の質問がある場合は、眼科または薬局のチームメンバーに相談されたい。
詳細情報は、黄斑疾患協会(Macular Society)のウェブサイト www.macularsociety.org/support/ にて確認できる。
ニュースソース
Specialist Pharmacy Service: Ranibizumab biosimilar: Patient Information Sheet.
https://www.sps.nhs.uk/wp-content/uploads/2024/07/Ranibizumab-biosimilar-Patient-Information-Sheet_final_July-2024-v3.pdf