新薬開発において中国を敵対視しつづけることのリスクは?

2025年7月7日、「中国開発の医薬品が米国の関心を集める中、規制の厳格化により新たな投資が冷え込む恐れがある」と題するSTAT論説記事。以下、記事の要約。

米中の製薬企業は競争相手であると同時に協力関係にもあるという矛盾した立場にあったが、米国の規制動向の変化により、今後のパートナーシップの継続や、中国で開発された革新的な医薬品が米国患者に届くかどうかに懸念が生じている。

この背景には、トランプ政権による対中強硬姿勢と、最近の米食品医薬品局(FDA)の二つの発表がある。一つは、米国人の生細胞を中国や「敵対国」に送って遺伝子操作を行い再注入する臨床試験の停止を検討するというもので、バイオセキュリティ上のリスク、とくに遺伝情報の悪用を懸念している。もう一つは、国家の医療優先事項に合致した企業に対し、迅速審査のための優先審査バウチャーを付与する新制度である。

専門家は、これらの動きが「国家安全保障」という名目のもと、FDAの政策にも影響を与えていると指摘する。これにより、米中間の医薬品関連ビジネスの在り方に冷却効果をもたらす可能性があるとする。

一方、中国は現在、米国にとって医薬品開発における最大の競争相手と見なされており、中国から西側へのライセンス契約は2024年に415億ドルに達し、全革新的医薬品資産の30%が中国に起源を持つ。とりわけ抗体薬物複合体(ADC)やT細胞エンゲージャーなどの複雑なバイオ医薬品が注目されており、2024年には米中間のライセンスの44%を占めている。

FDAによる細胞治療臨床試験の見直しは、主にCAR-T細胞治療に影響が及ぶ可能性がある。現在、米国で販売されている中国開発の細胞治療薬は、Legend BiotechとJ&Jが共同開発したCarvyktiのみであるが、その売上は前年の1億4千万ドルから3億1,800万ドルへと急増している。

中国のバイオ企業は、これまで米国の新興企業にライセンスアウトする戦略をとっていたが、米国の規制変化を受けて、今後は中国国内で開発を推進する傾向が強まる可能性がある。

この変化は、世界のバイオテックエコシステムに影響を与え、中国発の有望な初期段階の医薬品が西側市場に届きにくくなる一方で、中国国内のバイオ産業の競争力強化につながる可能性がある。

一部の中国企業は、FDAの動きにもかかわらず、米国での臨床試験計画を変更していないと述べている。たとえば、Belief BioMedは中国で血友病Bに対する遺伝子治療の承認を得ており、GenAssistはDMDに対する遺伝子編集治療の米国での治験許可を取得している。

今後、これらの中国企業による試験が継続されるかどうかは不透明であるが、FDAの対応は米中関係における戦略的な転換の一環であり、中国側が対抗措置として米国への投資制限やライセンス取引の制限を行う可能性もあると指摘されている。

(坂巻コメント:ex vivo遺伝子治療は、中国国内で細胞加工が行われることを意味する。中国発の新薬ロスと中国のカントリーリスクのバランスをどうするかの問題を投げかけている。)

 

ニュースソース

STAT:As Chinese-developed drugs draw U.S. interest, a regulatory chill threatens to dampen new investment. (By Brian Yang, July 7, 2025)
https://www.statnews.com/2025/07/07/china-biotech-drugmakers-fda-regulation/?utm_campaign=daily_recap&utm_medium=email&_hsenc=p2A%E2%80%A6

2025年7月16日
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