STAT、2025年7月11日の記事。以下は記事の要約。
カリフォルニア州再生医療機構(California Institute for Regenerative Medicine:CIRM)は、世界最大規模とも称されたiPS細胞のバイオバンクを10年以上保有してきたが、運用コストと利用率の低下を理由に、2024年7月16日を期限として閉鎖を決定した。これに伴い、多くのサンプルが破棄される前に、研究者に向けて大幅な値引きでの「在庫一掃セール」が実施されている。
以前は、細胞1バイアルが大学では750ドル、営利企業では1500ドルもした。 現在では、研究者が大量に購入すれば、わずか225ドルで細胞株を手に入れることができる。
CIRMは2004年、州民投票により30億ドルの予算を得て設立され、がんや糖尿病、パーキンソン病などに関する再生医療の研究を推進してきた。その一環として2013年より、アルツハイマー病や自閉症など遺伝的に複雑な疾患に焦点を当て、患者および健常者の細胞から作製したiPSCを収集・保存する事業に3,200万ドルを投じた。iPSC作製業務は、日本企業富士フイルムの子会社FCDI(FUJIFILM Cellular Dynamics, a Madison, Wisc.-based)が請け負い、同社には1,600万ドルが支払われた。
バイオバンクには最終的に約2,200人のドナーから2,600系統のiPSCが保管され、2016年から2024年にかけて22州・21カ国の研究者によって2,200バイアル以上が利用された。研究成果としては、APOE4遺伝子を有するアルツハイマー病患者の脳オルガノイドで高い細胞死率が観察された報告や、非アルコール性脂肪性肝疾患患者由来細胞の遺伝子発現解析などがある。
しかし、運営上の課題も多かった。CIRMが想定していたような大量購入は実現せず、85%の注文は10系統以下にとどまった。また、対象とした疾患が多因子的であったため、細胞異常の再現性が乏しく、研究利用の効率が低かったとの指摘もある。さらに、誤って健常者の細胞が納品された事例も報告された。
CIRMの職員や関係者は、当初の戦略が野心的であったことを認めつつも、限られた予算での継続が困難であるとの判断に至ったと説明している。FCDIは2025年まで運用を引き受ける契約であったが、2024年7月での運営終了を通知しており、新たな運営体制を模索した結果、年間数十万ドルの赤字を恒常的に負担する必要があることが判明した。
今後については、すべてのiPSC系統の代表サンプルが第三者機関で保管され、「将来的に需要が再燃した際には復活させる余地を残す」とされている。しかし、バイオバンクの再開時期や可能性は不透明である。
この閉鎖は、米国政府機関が動物実験からヒト細胞研究への移行を進める中での出来事であり、iPSCの活用可能性が高まる中での後退と捉える向きもある。
ニュースソース
STAT: California stem cell agency shutting down unique human tissue biobank- Scientists have six days left to buy CIRM patient samples at fire sale prices. (By Jonathan WosenJuly 11, 2025)
https://www.statnews.com/2025/07/11/stem-cell-research-cirm-biobank-shutting-down-launches-human-tissue-closeout-sale/?utm_campaign=the_readout&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz–zeRXUtnDeaPaKTKMeE7H1Vlr1nlROZCe3H08XnXRuvUEqpUYiK5iFayFn03PXlpC7_Xrerlwq8-TqbDtRSYPB7eQR8igGFGsbYBaVuVMIcRFMbF8&_hsmi=370868426&utm_content=370868426&utm_source=hs_email (サブスクリプション)