【論説】家庭用医療検査は健康判断に有用性を欠く

Nature、2025年7月3日記事。以下は記事の要約。

消費者向けに直接販売されている家庭用検査(Home medical tests)キットは、健康状態の指標を簡便に調べられる利便性がある一方で、多くの場合、正確性や有用性に欠け、誤解を生む可能性がある。

家庭用検査市場は近年急拡大しており、米国では2023年に約20億ドル、世界全体では40億ドルを超える規模に達している。検査項目は、遺伝的疾患リスクの評価から、体調不良、疲労、体重増加、消化不良など曖昧な症状の解明まで多岐にわたる。

確かに、妊娠、COVID-19、性感染症などの特定の検査は迅速かつ有効である。しかし、多くのウェルネス系検査は、医学的根拠が乏しく、誤解や害を与える可能性がある。消費者は、従来の医療で十分な説明や対応が得られないことへの不満から、こうした検査に頼る傾向がある。

検査技術の進歩や、COVID-19による在宅医療の普及、ソーシャルメディアでの情報拡散が、市場拡大に拍車をかけた。また、規制の緩さも問題である。多くの検査は「診断を目的としない」と明記することで、医薬品規制当局の監視を回避している。

中でも食物感受性検査(IgG抗体測定)は代表的な例である。これは特定の食品に対する「過敏性」を示すとされているが、IgGは実際には耐性や過去の摂取履歴を反映しており、科学的根拠は乏しい。主要なアレルギー学会はこの検査を推奨しておらず、「架空の診断」であるとの指摘もある。誤った情報により、本来必要な医療介入が遅れたり、誤った食事制限による栄養不足が起きたりする危険性がある。

腸内細菌叢(マイクロバイオーム)検査も普及しているが、分析手法が企業ごとに異なり、結果の一貫性に乏しい。標準的な手法や「健康な腸内環境」の定義すら定まっていないため、得られた結果に基づく食事指導も信頼性に欠ける。こうした検査結果の解釈は「科学というより芸術に近い」との意見もある。

一部の検査は本来の医療用途においては有効であるが、対象外の集団に向けて広く販売されると、かえって誤用のリスクが高まる。例えば、女性向けホルモン検査では、月経周期や時間帯により数値が変動するため、一度の測定には限界がある。また、更年期の診断に必ずしもホルモン検査は必要でない。

2023年のオーストラリアの研究では、市販されていた484の家庭用検査のうち、臨床的な有用性があると判断されたのは約10%にすぎなかった。多くは、もともと医療目的に開発された検査が、一般消費者向けに転用されたものであった。

『ランセット』誌も、こうした家庭用検査業界を「消費者の不安を利用した搾取的なビジネス」であると批判している。多くの企業は検査だけでなく、サプリメントや定期購入商品などの追加販売を行っており、利用者を長期的な顧客として囲い込むビジネスモデルを構築している。

(坂巻コメント:記事のポイントは、家庭用医療検査(OTC検査薬)は一部に有用な例もあるが、多くは医学的根拠が乏しく、誤診や不適切な対応につながる恐れがあるとしている。確かにOTC検査薬の中に検査精度(感度、特異度)が示されていないことや、薬剤師が精度をどのように判断するかについて知識を持たず販売していることもある。OTC検査薬の販売方法の検討も求められる。)

 

ニュースソース

Cassandra Willyard: Home medical tests miss the mark.
doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-02106-8

2025年7月9日
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