デンマークの秘密価格制度

2025年2月6日、デンマーク議会で、プライマリ・ケア部門の特定の医薬品について、交渉による秘密価格での償還を認める新法案が提出された1)。 この3年間の試験的スキームは、高額医薬品へのアクセスを改善する一方で、デンマーク地方の財政負担を軽減することを目的としている。

法案は、2025年7月1日から2028年6月30日までの間、デンマーク医薬品庁(Danish Medicines Agency: DKMA)が助成金受給資格を決定する際に、内密に交渉された価格を考慮することを認めるものである。 この制度では、製薬会社は公定価格とより低い交渉価格との差額を負担し、その差額はデンマークの地方に移転される。また、新制度は、以下のシナリオの医薬品に適用される。

  • 一般的な償還を申請しているが、高価格のため既存の助成要件を満たさない新規の高額医薬品。
  •  DKMAによる再審査が行われ、償還資格を維持すべきかどうかが決定される医薬品。
  •  病院からプライマリ・ケアに移行する医薬品で、外来治療を促進するために補助金の検討が必要なもの。

提案されている制度の主な内容は以下の通り。

  • 価格設定の機密性: 交渉された価格はデンマークの公的医薬品価格・償還制度に関する公式ウェブサイトである「Medicinpriser.dk」で公表されないため、秘密価格の低下が企業の国際的な価格戦略に影響を与えることがなくなる。
  •  Amgrosを通じた交渉:デンマークの公立病院向け医薬品と医療機器の中央調達・入札機関であるAmgrosが、DKMAに代わって製薬会社と秘密裏に値引き交渉を行う。
  •  消費者にとって直接的な節約にはならないこと: 患者が直接的に薬価の引き下げを経験することはないが、この制度により、既存の基準では適用されない医薬品が償還される可能性がある。

製薬企業にとっては、価格の障壁が高いために除外されていた製品の償還を確保する機会を得ることができる、グローバル・リファレンス・プライシングに影響を与えることなく、価格戦略の柔軟性を高めることができるなどのメリットがある。

欧州では、「秘密価格制度」は一般的と言える。ドイツでも2025年1月1日に、医学研究法(Medizinforschungsgesetz、MFG)に盛り込まれたドイツの薬価に関する重要な法改正が施行され、割引償還価格の秘密保持というオプションが導入された2)。公開されるのはパッケージ価格で、実際の償還価格(ネット価格)は非公開。選択時は追加9%の割引が義務付けられるとされる。

欧州における医薬品価格の透明性と秘密保持契約についてまとめられた2021年の論文では、EURIPID執行委員会が欧州22カ国を調査したところ、いずれも製薬企業と公的支払者との間で秘密保持契約が結ばれており、実際に支払われる価格は一般的に公表されている定価よりも低いことが確認された。
(EURIPIDプロジェクトは、2010年にハンガリー国立健康保険基金(National Institute of Health Insurance Fund Management of Hungary:NEAK)とオーストリア国立公衆衛生研究所(National Public Health Institute, Austria :GÖG)により、EU委員会の財政支援を受けて設立されたもの。)

英国のPatient Access Schemesも秘密価格制度の代表的な仕組みである。高額な新薬で、費用対効果が英国の基準で受け入れられない場合でも、秘密価格制度により英国NHSでカバーされている。

 

ニュースソース

  1. Bech-Bruun Law Firm:Confidential Pricing of Medicinal Products: Key Considerations for Pharmaceutical Companies.
    https://www.bechbruun.com/en/news/news/confidential-pricing-of-medicinal-products-key-considerations-for-pharmaceutical-companies
  2. Pharmaceutical Technology: All change in Germany – confidential pricing in, IRP out.
    https://www.pharmaceutical-technology.com/analyst-comment/all-change-germany-confidential-pricing-irp/
  3. Pierluigi Russo(Italian Medicines Agency, Via del Tritone, Rome), et al. : Medicine price transparency and confidential managed-entry agreements in Europe: findings from the EURIPID survey.
    Health Policy, Volume 125, Issue 9, September 2021, Pages 1140-1145
    https://doi.org/10.1016/j.healthpol.2021.06.008(オープンアクセス)

 

2025年7月1日
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