【論文】医薬品利用管理

Health Affairs Forefront、2025年6月3日記事。1989年、米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は、薬剤使用管理(Utilization Management: UM)が医療制度に与える影響を評価するために委員会を設置した。当時、UMは新しい概念であり、実証的な研究が不足していた。委員会は報告書『Controlling Costs and Changing Patient Care?』を通じて、UMの患者への影響に関するエビデンスの不足と、必要な医療へのアクセスを妨げる懸念を指摘した。論文は、UMの35年の進展と将来展望について議論している。以下は、論文の要旨。

UMの代表的な戦略

  • 事前承認(Prior Authorization)
  • ステップセラピー(Step Therapy)
  • 処方数量制限(Quantity Limits)
  • フォーミュラリ除外(Formulary Exclusions)
  • 処方権制限(Prescriber Restrictions)

これらの戦略は、保険者(PBMなど)によって「安全かつ適切な薬剤使用を促進し、無駄な医療費を削減する」目的で導入されているが、「適切な使用」の定義は主観的である。加えて、保険者は金銭的な仕組み(高額自己負担、高控除額プラン等)と組み合わせてUMを実施している。2024年には、86%の被保険者が3段階以上のコストシェア構造に属するプランに加入していた。2014~2022年にかけて、主要PBM3社によるフォーミュラリ除外は961%増加し、毎年600品目以上のFDA承認薬が補償対象外となっている。

UMの負の影響:一部ではUMが安全性向上やコスト削減に寄与するとされる一方で、以下のような深刻な問題も報告されている:

  • 治療の遅延とアクセス制限:Prior Authorizationにより、特にがん治療などで治療開始の遅延や不適切な代替療法の選択を余儀なくされるケースがある。
  • 服薬アドヒアランスの低下:フォーミュラリ制限や自己負担増により、処方された治療を中断・回避する患者が増加し、疾患悪化や医療資源の過剰利用につながる。
  • 行政負担の増加:AMAの調査では、93%の医師がPrior Authorizationによる治療遅延を経験しており、手続きの煩雑さが医師・患者双方に負担となっている。
  • 医療費の逆転増加:UMが意図に反して、総医療費の増加を招いているとの研究もある。実装・運用・異議申し立てのコストが年間930億ドルに達するとの推計もある。

結論として、UMは今や米国医療制度の中心的な構造となっているが、その運用は本来の目的を逸脱し、医療の質や患者中心のケアを損なうリスクがある。今後は、以下のような観点からUMの改革が求められ、よりバリュー・ベースかつ患者中心の医療政策の実現に向けた取り組みが必要であるとする。

  • 臨床的価値に基づいた設計
  • エビデンスとの整合性と透明性の確保
  • 不適切なアクセス制限の排除
  • 患者負担軽減との整合的な制度改革

 

ニュースソース

Kimberly Westrich(chief strategy officer of the National Pharmaceutical Council), et al. : Tracing The Arc Of Medication Utilization Management Over Time.
Health Affairs Forefront, June 3, 2025 Doi: 10.1377/forefront.20250602.396783
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/tracing-arc-medication-utilization-management-over-time

2025年6月4日
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