- 問題の所在:価格規制の限界
米国では長年にわたり、薬剤費を抑えるためにリベート制度や法定価格制度などの行政的介入が導入されてきた。しかし、それらの多くは実効性に乏しく、むしろ価格の高止まりやコストの民間部門への転嫁を引き起こしてきた。特にメディケイドやメディケアにおける価格制度は複雑化し、GAOやOIGの報告書によって繰り返し問題点が指摘されてきた。 - 現行制度の副作用:逆インセンティブと価格の歪み
- メディケイドのリベート制度では、製薬企業が予測されるリベートを見越して初期価格を引き上げる傾向が観察されている。
- メディケアPart Bの「加算支払い方式(ASP+6%)」は、医師にとって高額薬剤を選択する経済的動機を生む。
- こうした制度は、実際の価値に基づく価格形成や効率的供給・使用を阻害している。
- インフレ抑制法(IRA)と政府交渉の導入
2022年に制定されたIRAは、価格高騰を抑制するためにメディケアでの価格交渉制度を初めて導入し、2026年から特定薬剤の価格決定が始まる。しかし、交渉プロセスの透明性や基準設定方法には依然として課題が残されている。 - 民間市場の成功事例と新たな政策提案
- Part Dでは、競争を通じてリベートが年間500億ドルに達し、保険料抑制に一定の効果を上げているが、自己負担(copay/coinsurance)がリスト価格に基づくため、消費者負担が軽減されていない。
- これを是正するには、自己負担額を純市場価格に連動させる制度改正が有効である。
- 政策改革の方向性
以下のような構造改革が提案されている:
- メディケイド・リベート制度を財務省管理下の透明な定率料金制へ移行。
- Part Dにおける自己負担の見直しと価格の透明化。
- Part B薬剤について、専門薬局(specialty pharmacy)経由の調達や、MAプランを活用した競争導入。
- 成果連動型支払い(value-based payment)モデルの推進と保証契約(warranty)の活用。
- 特に高額な細胞・遺伝子治療では、保険リスクプールの設計や再保険制度の活用が求められる。
- 結論
過剰な規制と不透明な価格体系は、競争を妨げ、薬価の引き上げと消費者負担の増加を招いてきた。今こそ、透明性と競争原理に基づいた新たな薬価政策へと舵を切るべきである。
ニュースソース
Deborah Williams()et al. : Reforming Drug Price Regulation: Using Tools That Work.
Inquiry. 2025 Jan-Dec:62:469580251335844. doi: 10.1177/00469580251335844. Epub 2025 May 14. PMID: 40366345 PMCID: PMC12078953 DOI: 10.1177/00469580251335844(オープンアクセス)
2025年5月20日