メディケア薬価交渉におけるいわゆる「ピルペナルティ」廃止のコスト

Health Affairs Forefrontウェブ版2025年５月８日記事。以下は、記事の要約。

2022年制定のインフレ抑制法（IRA）は、メディケアによる高額薬剤の価格交渉を可能としたが、FDA承認直後の新薬は交渉対象とならず、化学合成薬は承認から9年後、バイオ医薬品は13年後に交渉価格が適用される。この「バイオ医薬品ボーナス」（坂巻注：一般には、経口投与可能な低分子薬に焦点を当て「ピルペナルティ」とも呼ばれる）は、バイオ医薬品の開発がより複雑かつ高コストと見なされていた過去の立法（例：2010年のBiologics Price Competition and Innovation Act）に起因するが、近年の研究ではその前提は疑問視されており、バイオ医薬品と化学合成薬の開発期間やコストに大きな差はなく、むしろバイオ医薬品の方が高収益である傾向が指摘されている。

2025年2月には、化学合成薬についても13年間の待機期間を設ける法案が米議会に再提出され、4月にはトランプ政権がこの変更を支持する大統領令を発出した。本稿では、その経済的影響を評価している。

2022年のメディケア支出データをもとに、価格交渉までの待機期間延長により影響を受ける可能性がある化学合成薬を抽出した結果、23品目が該当し、その総支出額は2025〜2026年には約241億ドルに達すると推定された。これらには、HIV治療薬Biktarvy、がん治療薬ErleadaやVerzenio、C型肝炎治療薬Epclusaなど、臨床的・公衆衛生的に重要な薬剤が含まれる。

待機期間を延長することにより、価格交渉を通じたメディケア支出の削減効果が著しく減少し、患者の自己負担軽減やアクセス向上といったIRAの本来の目的も損なわれる。2025年時点でメディケア受給者のうち多くが自己負担比率（コインシュアランス）を課されており、価格交渉によって平均65%の価格引き下げが実現すれば、受給者の経済的負担は大きく軽減される。

結論として、化学合成薬の交渉開始時期を13年に遅らせることは、メディケアの薬剤支出削減という制度の趣旨を損なうものであり、政策的にも非合理である。バイオ医薬品と化学合成薬の公平性を求めるのであれば、バイオ医薬品側の待機期間を短縮することがより合理的であり、削減された歳出をメディケア受給者の費用負担軽減に活用すべきである。

ニュースソース

Christopher Cai（Harvard Medical School and the Division of Pharmacoepidemiology and Pharmacoeconomics in the Department of Medicine at Brigham and Women’s Hospital）, et al. : Costs Of Extending The Small Molecule Exemption Period In Medicare Drug Price Negotiation.
Health Affairs Forefront. May 8, 2025 10.1377/forefront.20250506.682143

メディケアの価格交渉適格期間が 9 年から 13 年に延長されることで影響を受ける可能性のある低分子医薬品

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