【論文】米国の医療制度における臨床経済評価研究所ICERの役割:患者の視点を中心に据える

2025年4月8日公開、Health Affairs Scholarの論文。以下は、論文の要約。

米国の臨床経済評価研究所(Institute for Clinical and Economic Review:ICER)は、2006年に設立された独立系非営利団体であり、米国医療制度における「価値に見合った価格設定」を目指し、医療技術評価(health technology assessment:HTA)を通じた透明性のある意思決定を推進している。ICERは、新規治療法の便益と既存の治療との比較、及びそれに見合った社会的費用に関する問いを中心に、厳格な文献レビューと経済モデルを構築する8か月間のプロセスを通じて、政策に活用可能な独立した研究成果を提供している。これらの成果は、退役軍人省(Veteran’s Health Administration)、メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services:CMS)、議会予算局(Congressional Budget Office:CBO)、民間保険者、製薬企業など、幅広い公的・民間組織によって活用されている。また、HTA手法の国際的な改善にも寄与している(参照:英国NICE、米国ICER、カナダCDA-AMCは、新たなHTA会議体を設置)。

ICERは薬剤評価にあたり、患者、医師、保険者、製造企業を含む多様なステークホルダーとの対話を通じて報告書を作成し、公聴会での検討を行う。この中でも、特に患者との関与は国際的にも高く評価されており、患者が治療へのアクセスと価格に直接関わる決定に影響を与えるべきであるとの信念に基づいている。

ICERは、患者コミュニティに対し、レビュー開始前の招待から始まり、意見提供、公開会議への参加、そして証拠に基づく政策提言活動への活用まで、段階的かつ継続的な関与の機会を提供している。また、オンラインフォーム、書面提出、バーチャル面談、少人数インタビューなど、多様な方法を用いることで、参加者の負担を軽減している。加えて、患者や介護者の時間的労力に報いるため、正当な対価の支払いも行っている。

2023年には「患者評議会(Patient Council)」を設置し、患者からの継続的な助言を受けながら、ICERのアウトリーチや評価プロセスの多様性・包摂性・アクセシビリティの向上を図っている。ICERは今後も、患者中心の視点を維持しつつ、価格や政策に関する提言が、患者にとって本当に重要な価値に根ざすものであることを確保していく方針である。

 

(坂巻コメント:著者は、ICER所属でお手盛り感はあるが、ICERの評価プロセスを知るうえで参考になる論文。日本のHTAは、薬価を下げるためだけの役割しかなく、透明性もなく、患者の意見も参考にされることはない。)

 

ニュースソース

Sarah K Emond(Institute for Clinical and Economic Review (ICER), 14 Beacon St, Suite 800, Boston), et al.: Institute for Clinical and Economic Review’s role in the US health care system: Centering the patient perspective.
Health Affairs Scholar, Volume 3, Issue 4, April 2025, qxaf071, https://doi.org/10.1093/haschl/qxaf071

2025年5月2日
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