Therapeutic Innovation & Regulatory Science誌、2025年4月22日公開論文。米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act’s:IRA)導入後の製薬企業スポンサーによる臨床試験への投資の変化を検討した研究。IRA可決後、製薬業界スポンサーによる臨床試験は減少しており、特に、「ピル・ペナルティ」の影響により、低分子医薬品への影響が大きいとする。
著者は、National Pharmaceutical Councilのメンバーで雑誌もDrug Information Association (DIA)の公式学術誌。どちらの組織も製薬業界を代弁する組織であり、バイアスは避けられない。日本の業界団体の「薬価制度が悪いから日本の創薬力が落ちた」という主張と類似。以下は、論文の抄録。
背景:インフレ削減法(IRA)の薬価交渉プログラム(Drug Price Negotiation Program:DPNP)は、承認後の臨床開発に対する産業界の投資意欲を減退させる可能性がある。 我々は、IRAが、産業界がスポンサーとなる承認後臨床試験の開始に与える影響を調査することを目的とした。
方法:Citeline社のTrialtroveデータベース(2014年7月~2024年8月)を使用し、ワクチンとCOVID-19治療薬を除くすべての既承認薬の業界後援の第Ⅰ~Ⅲ相試験の開始に対するIRAの影響を推定するために、中断時系列分析(interrupted time series analysis:ITSA)を実施した。 さらに、IRAの影響を受けないと仮定される政府資金による臨床試験におけるIRA後の変化を調べるためにITSAを実施し、潜在的な外因性交絡因子を探るために感度分析を行った。 最後に、低分子医薬品と高分子医薬品の承認後の産業界主導の臨床試験開始に対するIRAの影響の違いを検討した。
結果:IRA成立後、承認後医薬品の業界主導治験数は月平均38.4%減少した。 ITSAによれば、IRAの成立は、直ちに11.1件の業界主導治験の減少(p値 < 0.05)と関連し、さらに月当たり0.9件の治験の減少(p値 < 0.01)と関連した。 IRAの可決は、政府資金による試験開始の変化とは統計的に関連しなかった。 感度分析でもITSAの結果は支持された。 承認後の企業主導治験の開始は、低分子薬で47.3%、高分子薬で32.9%減少した。
結論:IRAの成立は、政府が資金を提供するのではなく、産業界が資金を提供する承認後臨床試験の減少に関連し、低分子医薬品の減少幅が大きかった。 これらの知見は、IRAに関連した承認後の臨床開発に対するインセンティブの減少に関する懸念を裏付ける初期の証拠となる。
ニュースソース
Hanke Zheng(National Pharmaceutical Council, Washington), et al.: The Inflation Reduction Act and Drug Development: Potential Early Signals of Impact on Post-Approval Clinical Trials.
Ther Innov Regul Sci (2025). https://doi.org/10.1007/s43441-025-00774-2(オープンアクセス)
(ピル・ペナルティについては米国の薬価引き下げ大統領令:ピル・ペナルティのジェネリック市場への影響参照)