2025年4月16日公開、Health Affairs Forefront記事。著者は、Rachel Sachs氏。2023年4月から2024年4月まで、保健社会福祉省(Department of Health and Human Services)のメディケア・メディケイド・サービスセンター部(Centers for Medicare and Medicaid Services Division)法律顧問室(Office of the General Counsel)で上級顧問を務めた。
以下は、論文の要約。
2025年4月15日、トランプ前大統領は「米国民を再び最優先にして医薬品価格を引き下げる」ことを目的とする大統領令を発出した。本命令は、医薬品価格に関する広範な政策を複数の省庁や機関に指示し、連邦議会との連携も求めている。内容の多くは、前政権期の政策の再掲であるが、「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act’s:IRA)」のメディケア薬価交渉制度に関する新たな提案も含まれている。
- トランプ政権初期の提案の復活
・医薬品輸入の拡大(セクション10)
FDAに対し、カナダなどからの州単位の薬品輸入制度を「効率化・改善」するよう求めている。2020年に策定された輸入規則を踏襲しているが、製薬企業およびカナダ政府の協力が依然として課題である。
・340B制度に関する措置(セクション5・7)
セクション5では、340B病院の医薬品取得コストの調査を指示し、その結果を踏まえたメディケアの支払い調整を検討する。これは2022年の最高裁判決に対応するものとみられる。
セクション7では、特定の健康センターにおけるインスリン等の割引価格の患者への還元を補助金支給条件とするよう求めている。これは2020年に制定され、バイデン政権が撤回した規則を復活させる動きである。
・PBMの規制強化(セクション8・12)
PBMの透明性向上やバリューチェーンの競争促進に関する提案を大統領に提出するよう関係機関に指示しているが、具体性に欠ける。なお、議会で検討中のPBM関連法案との連携は明示されていない。
- IRAに基づく薬価交渉制度の改定提案
・交渉対象薬の選定基準と透明性向上
2028年適用薬を対象に、制度の透明性向上と高コスト薬の優先選定、そして革新性への影響最小化を指示している。ただし、透明性の定義や対象が不明瞭であり、実効性には疑問がある。
・Part D保険料の安定化
IRAの制度変更により保険料の不安定化が懸念される中、保険料引き下げ・安定化のための方策検討が求められている。
・低分子薬とバイオ医薬品の扱いの統一
現行法では低分子薬が9年、バイオ医薬品が13年経過後に交渉対象となる。この差を解消するため、低分子薬の交渉対象化時期の延長を提案しているが、それにより医薬品価格が上昇する可能性がある。命令ではコスト増を回避する改革との「抱き合わせ」実施を指示しているが、具体案は未定である。
- その他の注目すべき指示事項
・後発薬・バイオシミラーの承認加速(セクション9)
FDAに対し、後発品等の承認プロセス迅速化を指示しているが、直近の人員削減によりその実現可能性には疑問が残る。また、承認後の薬剤が保険フォーミュラリに組み込まれるかは別問題であり、実効性には限界がある。
・国際価格参照制度への言及の欠如
第一政権時に導入を試みた国際価格参照制度(Medicare Part B対象)については、本命令では直接的な記述はないが、セクション4における新たな支払モデルの検討は、将来的な再導入の布石とも読み取れる。
本命令は、薬価引き下げに向けた複数の方向性を提示しているが、実施には法的・制度的な課題が多く、効果のある改革もあれば、逆に価格上昇につながる可能性がある改革も含まれている。今後の優先順位の選定が、政権の薬価改革に対する本気度を示すことになるであろう。
ニュースソース
Rachel Sachs:Administration Lays Out Drug Pricing Plan Through Executive Order.
Health Affairs Forefront, April 16, 2025 10.1377/forefront.20250416.418190
(参考記事)
- 【注目記事】米国大統領、薬価引き下げの大統領令に署名
- 米国の薬価引き下げ大統領令:ピル・ペナルティのジェネリック市場への影響
- 【論文】340Bプログラムの薬剤マージンと医療機関特性との関係
- 米国連邦取引委員会は、PBMによるスペシャリティ薬価格値上げを追求