2025年4月15日(現地)、トランプ大統領は、薬価引き下げに関わる大統領令に署名した(参考【注目記事】米国大統領、薬価引き下げの大統領令に署名)。この中には、バイデン政権下で成立した「インフレ抑制法 (Inflation Reduction Act:IRA)」の改善が含まれ、とりわけ、小分子薬とバイオ医薬品の制度上の格差(いわゆる「ピル・ペナルティpill penalty」)の是正への注目が高まっている。
Pill Penaltyとは、IRAにおいてメディケア(高齢者向け公的医療保険)による医薬品価格交渉が導入され、低分子医薬品はFDA承認から9年後に価格交渉の対象となる一方で、生物製剤は13年後に対象となる、この4年の差のことを指している。
米国研究製薬工業協会(Pharmaceutical Research and Manufacturers of America:PhRMA)のホームページで、PhRMAパブリック・アフェアーズ・チームのシニア・マネージャーであるMatthew Norawong氏は、ピル・ペナルティがもたらすジェネリック医薬品市場に与える影響を考察している。
1984年に制定されたハッチ・ワックスマン法以降、米国のジェネリック医薬品市場は、ブランド医薬品に対する安価な代替品を提供し、医療費の抑制と製薬イノベーションの両立に貢献してきた。現在、処方の約90%は低コストのジェネリックであり、平均自己負担額は6ドル程度である。しかし、IRAの薬価設定条項は、この制度が築いてきたバランスを損ない、ジェネリック市場を混乱させるものである。
政府が設定する上限価格(maximum fair prices:MFP)により、ジェネリックが参入するインセンティブが減少し、結果として市場参入が抑制される可能性がある。ハッチ・ワックスマン法では、最初に参入するジェネリックに180日の市場独占期間が与えられ、それが企業の動機づけとなっている。ところが、IRAではこうした高額ブランド医薬品こそが政府による価格交渉の対象とされており、ジェネリックが上市する頃にはMFPが既に大幅に割引された水準となっている可能性が高い。その結果、独占期間中の投資回収が困難となり、ジェネリック参入の誘因が損なわれるとする。
ピル・ペナルティは、錠剤やカプセルといった小分子医薬品を不利に扱い、生物製剤より早い段階での価格交渉対象とする差別的な設計である。これは小分子医薬品への投資を減退させ、将来的なジェネリックの供給をも抑制する懸念がある。さらに、ジェネリック市場の弱体化は、複数の製造業者が存在することで実現されていた供給の強靭性を損なう。IRAによって収益性が低下すれば、既存メーカーの撤退や供給不足が発生しやすくなる。
バイオ医薬品のイノベーションからジェネリックの参入までに与える影響を是正するため、ピル・ペナルティの撤廃を主張している(ピル・ペナルティの正式撤廃には、議会によるIRAの改正が必要)。
ニュースソース・関連記事
- Matthew Norawong: How the IRA is impacting the generic drug market (April 8, 2025)
https://phrma.org/blog/how-the-ira-is-impacting-the-generic-drug-market - 他にも、PhRMAは、「議会がIRAのピル・ペナルティを修正すべき3つの理由」とする記事も公開している(2025年3月24日)
Brianna Allen: Three reasons Congress should fix the IRA’s pill penalty (March 24, 2025)
https://phrma.org/blog/congress-needs-to-fix-the-iras-pill-penalty - また、大統領令署名後の業界紙の記事としてMedicity Newsは、ピル・ペナルティを修正は企業側によっては勝利と言えるが、国民や保険者にとっては医薬品価格高騰となることの懸念を示している。
Marissa Plescia: Trump’s Executive Order on Prescription Drug Costs Delivers a Win for Pharma Companies(April 16, 2025) - 同じく大統領令署名後の業界紙の記事としてKKFは、「現行制度では、2026年・2027年に価格交渉対象となった25品目のうち13品目(支出額610億ドル相当)が、新ルール下では対象外となる。これにより、価格交渉による節減効果は大きく損なわれる。政府は他の改革と併用してコスト増を抑える方針を示すが、具体策は示されていない」とする
Juliette Cubanski and Tricia Neuman: The Effect of Delaying the Selection of Small Molecule Drugs for Medicare Drug Price Negotiation(Apr 16, 2025).
https://chatgpt.com/c/6802097d-cba0-8013-9bda-0aad42cffb63