Nature誌2025年4月16日記事。以下は要約。
アルツハイマー病の治療は長らく難航してきた。特に、アミロイドβ(Aβ)を標的とする治療薬は2004年から2021年の間に14の候補が第III相試験で失敗し、Aβ仮説自体に疑問が呈されていた。しかし、2021年以降、米国では3つの抗アミロイド薬が承認され、うちレカネマブとドナネマブは認知機能の低下を約30%抑制する効果が示された。
これらの薬剤は認知症進行の抑制に一定の効果を示すものの、脳浮腫や出血(amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)などの副作用もあり、治療の便益とリスクのバランスが課題である。ARIAの発症率はレカネマブの試験で21.5%にのぼり、一部の患者では症状を呈する。薬剤送達を改善する「ブレインシャトル」技術などで、安全性向上が期待される。
Aβは症状出現の20〜30年前から蓄積することから、より早期、無症状の段階での投与が治療効果を高める可能性がある。また、皮下注射型への改良により、通院の負担軽減と治療の普及が見込まれる。
抗体の代わりにAβに対する抗体を体内で作らせるワクチン開発も進行中であり、簡便で低コストな治療の可能性を秘めている。以前の試みは副作用で中止されたが、T細胞応答の制御により再挑戦が始まっている。さらに、γ-セクレターゼの機能を調節する低分子薬によって、Aβ産生を予防するアプローチも注目されており、ロシュ社の候補薬は早期試験で有望な結果を示している。
アミロイド仮説に基づく治療だけでは限界があるとの指摘もある。タウタンパク質の異常や、細胞内の老廃物処理系であるリソソームやエンドソームの機能不全が、より早期かつ本質的な発症原因であるとする仮説も登場している。リソソームの酸性度の低下が細胞死とAβ蓄積の直接原因である可能性を示唆する研究結果も報告されている。この仮説が正しければ、アミロイド除去だけでは本質的な治療とはならず、根本原因への介入が必要となる。今後は、アミロイド仮説に加え、リソソーム機能障害やタウ病理、免疫細胞の役割といった複数の視点を融合した治療戦略が求められるであろう。
ニュースソース
Simon Makin:The future of Alzheimer’s treatment.
Nature 640, S4-S6 (2025) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01102-2