2025年4月9日、米国臨床経済研究所(Institute for Clinical and Economic Review:ICER)は、ブラウン大学の研究者と共同で、「GLP-1肥満治療薬への手頃な価格で公平なアクセスを確保するための戦略を示す」ホワイトペーパーをリリースした。「GLP-1肥満治療薬への手頃な価格のアクセス:市場行動と政策解決策を導くための戦略」と題されたこの論文は、すべての利害関係者が新しい肥満治療薬の価格設定、補償範囲、支払いについてのオプションメニューを提示している1)。
大きくは、①償還に関する介入と②国の政策への介入の2つにまとめられている。
- 償還に関する介入
- 償還マネジメント:保険適用の留保、保険適用範囲の制限と事前承認(適用患者の厳密化)、償還期間の制限、処方(フォーミュラリ)管理(単一のGLP-1のみの償還)など
- 医療提供者マネジメント:外部の利用管理(utilization review)
- 支払い方法:パフォーマンス契約(体重減少目標を達成した患者の身に対する償還)、サブスクリプションモデル(一定期間、特定患者に対する一定額償還)、数量リベート(使用量に応じた支払者に対するリベート)
- 肥満症管理サービスのカーブアウト・プログラム(肥満管理を外部委託し、そこに包括)
- 国の政策への介入
- メディケアにおける肥満症治療薬の保険適用管理
- 民間保険でのアクセス管理(向上)
- 積極的な連邦薬価交渉によるコスト削減
- 肥満治療の民間保険適用に連邦補助金を支給することでのコストを削減
- 医薬品メーカーからのGLP-1製剤のジェネリックメーカへのライセンス供与によるコスト削減
一方、米国製薬企業の政策研究団体National Pharmaceutical Council:NPCは、早速、同日(4月9日)に、「GLP-1の価値を支持する強力な臨床的・経済的エビデンスを見落とす一方で、主にアフォーダビリティに焦点を当て、患者よりも支払者の課題を優先している」と痛烈に批判している2)。主な批判ポイントは以下の3点。
- 広範なエビデンスがGLP-1の強力な臨床的・経済的価値を裏付けている。
- この報告書は、短期的な支払者のアフォーダビリティを優先し、価値よりもコスト抑制を優先すべきであると示している。
- ICERが提案した市場行動や政策的解決策の多くは、患者ではなく、支払者に役立つものである。
ニュースソース
- Steven D. Pearson(Institute for Clinical and Economic Review), Christopher M. Whaley(Department of Health Services, Policy, and Practice Brown University), et al.: Affordable Access to GLP-1 Obesity Medications: Strategies to Guide Market Action and Policy Solutions.
https://icer.org/wp-content/uploads/2025/04/Affordable-Access-to-GLP-1-Obesity-Medications-_-ICER-White-Paper-_-04.09.2025.pdf - National Pharmaceutical Council:ICER Prioritizes Payers Over Patients in White Paper on Access to GLP-1 Obesity Medications.
https://www.npcnow.org/resources/icer-prioritizes-payers-over-patients-white-paper-access-glp-1-obesity-medications
(関連情報)
- 米国の市場調査会社EVERNORTH社は、2025年3月公開のレポート「Pharmacy in Focus: Navigating the GLP-1 conundrum」でGLP-1により米国の薬剤費が大きく伸びている一方、以下の2点に懸念を示している。
- GLP-1は急速な普及と高い中止率という2つの課題に直面しており、長期的な価値について疑問が投げかけられている。
- 若者の間でGLP-1の使用が急増し、持続可能性と供給に関する懸念が高まっている。
EVERNORTH:2025 Pharmacy in Focus Report.
https://www.evernorth.com/pharmacy-in-focus-2025
- バイデン政権は、メディケア・プログラムでGLP-1の肥満治療をカバーする方針であったが、トランプ政権は2025年4月5日カバーしないことを決定したとされる。この背景には、GLP-1否定論者であるRobert F. Kennedy Jr.氏が保健福祉(Health and Human Services)長官に着いたことが関係していると思われる。
AP News: Trump administration nixes plan to cover anti-obesity drugs through Medicare.
https://apnews.com/article/trump-medicare-coverage-wegovy-zepbound-54bf291135fa9efec7d0ad9672c850a1
2025年4月10日