【論文】医薬品投資の意思決定において市場アクセスを考慮する必要性

新薬の発見および初期開発は、資金調達が困難でリスクの高いプロセスであり、主に売上を持たないスタートアップ企業によって担われている。前臨床試験、3段階の臨床試験を経て規制当局による承認を得る必要があり、これには平均81か月、推定で約26億ドル(2013年)かかるとされる。しかも第1相試験から承認に至る確率は12%未満である。医薬品開発意思決定において市場アクセスを正味現在価値(NPV)に統合するための方法論を解説する論文。以下は、ChatGPTによる要約。

 

  1. 投資判断とNPV(正味現在価値)

バイオテック企業はベンチャーキャピタルなどの資金に依存しており、投資家はNPV(将来の収益とコストを割引率で現在価値に換算)を用いて投資判断を行う。NPV計算では、市場規模、価格戦略、競争状況、成功確率、規制リスク、承認時期、ジェネリック参入時期などが考慮される。

  1. NPVの単純な例と意義

1000ドルを貸して2年後に1200ドル返してもらえる提案と、年利5%の貯金とを比較する例が示され、将来のお金の価値は現在よりも低いこと、投資にはリスク調整が必要であることを説明している。バイオ医薬品投資では投資額が大きく、期間も長く、失敗率も高いため、この概念がより重要になる。

  1. 市場アクセスの重要性

製品が承認されても、市場で患者に届き、売上を生むには「市場アクセス(Market Access)」が不可欠である。市場アクセスには、価格設定、償還(保険支払いの可否と金額)、患者アクセスの3要素がある。臨床的有用性と医療システムへの価値が十分に証明されていれば、価格・償還・アクセスの全てにおいて好条件を得ることができ、売上も最大化される。しかし多くの企業が規制承認ばかりに注力し、市場アクセスのための十分なエビデンスを準備しないため、販売が予測を下回る事態が多発している。

  1. 市場アクセス戦略がNPVに与える影響

市場アクセスの成功・失敗はNPVに大きな影響を及ぼす。特に、証拠不十分による価格の低下、限定的な償還、発売の遅延、医師の使用控えが問題となる。また、HTA(医療技術評価)による健康経済モデルの提出など、規制承認とは異なる追加要件も存在する。

  1. 米国IRA(インフレ削減法)とその影響

IRAの導入により、承認から一定年数後に価格交渉と価格引き下げが義務化され、NPV試算に「崖(cliff)」効果が生じている。これにより、企業は小分子薬の開発を控え、バイオ製剤にシフトしている。また、がん薬の適応拡大や小児適応の研究も投資回収の困難さから減少している。

  1. 欧州の動向

EUでは2025年からJoint Clinical Assessment(JCA)が導入され、複数の国で比較対象やアウトカムが異なるため、証拠生成の計画がより複雑化している。これにより追加コストや償還までの時間が増大し、NPVへの影響も大きい。

  1. 市場アクセス戦略の最適化

市場アクセスを成功させるには、臨床・経済・患者関連(QOLなど)の証拠を早期に準備し、国別の規制やHTAに対応することが求められる。高価な試験ばかりに頼らず、費用対効果の高いエビデンス生成に集中すべきである。例えば、全市場で比較試験を行うのではなく、主要市場に重点を置き、他の市場ではリアルワールドデータや間接比較で補うことが戦略として有効である。

  1. 結論

今後は、市場アクセス戦略をNPV計算に統合することが極めて重要である。市場アクセスはもはや戦術的な活動ではなく、開発初期から組み込むべき戦略的活動である。早期から専門性をもって対応する企業は、投資家からの信頼を得やすく、商業的成功に近づくとされている。

 

ニュースソース

Sreeram V Ramagopalan(Centre for Pharmaceutical Medicine Research, King’s College London, London)et al. : The need to consider market access for pharmaceutical investment decisions: a primer.
Journal of Comparative Effectiveness Research https://doi.org/10.57264/cer-2025-0036(オープンアクセス)

 

2025年4月8日
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