JAMA Forum、2025年4月3日公開記事。以下は少し詳しめの要約。(坂巻コメント:日本医薬品流通や薬局のコンセプトと大きく異なるが、参考まで)
独立薬局は、低所得者層や無保険、公的保険加入者の多い地域に位置していることが多く、チェーン薬局と比して閉鎖リスクが著しく高い。また、黒人やヒスパニック系住民が多い地域を主に支え、しばしば地域で唯一の薬局であることから、その閉鎖は「薬局空白地帯(pharmacy deserts)」の拡大やワクチン接種などの予防医療へのアクセス低下を招き、健康格差を悪化させる。
2024年7月、連邦取引委員会( Federal Trade Commission:FTC)は、薬局給付管理業者(pharmacy benefit managers :PBM)と保険会社の統合が進み、独立薬局が不利な立場に置かれている実態を中間報告書で公表した。処方箋の低い償還額に関する契約が閉鎖要因とされている一方で、政策的には市場構造に根ざす課題への対応が進んでいない。
独立薬局の主な課題:
- 市場での不利な立場:独立薬局は、チェーン薬局に比べて単位あたりコストが高く、収益の多くを処方箋収入に依存しているため、利益率が低い。さらに、制度変更への対応力が乏しく、オンライン薬局や郵送薬局との競争にも不利な状況にある。
- PBMとの交渉力不足:独立薬局はPBMとの契約交渉において規模の小ささから不利であり、収益性の低い契約か、契約を断って患者を失うかの選択を迫られることが多い。交渉を代行する団体も存在するが、好条件を引き出すのは困難である。
- 「選定ネットワーク(Preferred Network)」へのアクセス制限:Medicare Part D制度では、PBMや保険会社が選定薬局ネットワークを構築し、患者に対して低自己負担額を設定することで、特定の薬局への誘導を行っている。独立薬局はこのネットワークに入りづらく、結果として処方箋数が減少しやすい。
- 直接・間接報酬(Direct and indirect remuneration:DIR)手数料の管理問題:DIR手数料は本来コスト抑制を目的としたものであるが、実際には制度外でも広く適用され、不透明かつ過度な徴収が独立薬局を圧迫している。多くの指標は薬局の裁量外にあり、パフォーマンス改善に活かしづらい。2024年1月から交付時価格に反映する制度改正が実施されるが、経済的負担の根本的な解消には至らない。
政策提言:
- ネットワーク基準の見直し:Part D制度におけるアクセス基準を「選定薬局」レベルで設定し、スポンサー企業に対して契約条件の改善を促すことで、薬局空白地帯における独立薬局の設立を後押しできる。
- 薬局契約の規制強化:DIR手数料の透明化と標準化、ならびに質指標の妥当性確保が求められる。さらに、州レベルでの成功事例(例:アーカンソー州の「原価以上での償還義務」)に倣い、PBMとの契約に対する連邦規制の整備も検討すべきである。医療費の透明化や競争促進につながる「スプレッド・プライシング禁止」などの施策も効果的である。
結論:
独立薬局は脆弱なコミュニティにとって不可欠な存在であるが、自身は深刻な経済的リスクにさらされている。持続可能な運営を可能とするためには、公平な契約条件を確保し、地域に根ざした薬局の役割を守る政策的対応が必要である。
ニュースソース
Priyanka A. Abraham(Independent Scholar, Houston, Texas), et al.: Reforming Markets to Strengthen Independent Pharmacies.
JAMA Health Forum. 2025;6(4):e250142. doi:10.1001/jamahealthforum.2025.0142