JAMA Forum、2025年4月3日公開記事。以下は少し詳しめの要約。
疾病予防への投資は、「健康を改善し、かつ医療費を削減する」という二重の期待が課されており、厳しい基準といえる。新たな治療法が導入される際には、その有効性と安全性がまず問われ、次にコストに見合った価値があるかどうかが評価される。予防も同様に、費用に対して健康改善効果が十分であるかどうかで評価されるべきである。
予防介入は必ずしもコスト削減を伴わない。喫煙防止プログラムなど多くの予防策は、将来的な健康改善をもたらすが、総医療費を削減しないことも多い。コスト効率性は認められる場合があるが、それとコスト削減とは異なる概念である。
予防が健康改善と医療費削減の両立を達成できるのは、ごく限られた介入においてである。たとえば60〜64歳男性の大腸内視鏡検査や小児の予防接種などは、介入コストを上回る将来的な医療費削減が見込まれる。
予防の費用対効果を評価するには、①介入コストが十分に低いこと、②予防により回避される医療コストが高額であること、③対象者のうち何人に介入すれば1件の重篤な疾患を防げるか(治療必要数:NNT)が十分に小さいこと、の3点が重要である。
たとえば、月400ドルで2年間実施する健康プログラムが心不全リスクを5%から4%に下げるとする。この場合、心不全1件を予防するには100人の参加が必要となり、総費用は96万ドルとなる。一方で心不全の治療費は2万2000ドルにすぎず、予防は健康を改善するがコストは大きく増加する。費用削減のためには、NNTが2程度まで低下し、かつ介入効果が極めて高い場合が求められるが、そのような高い効果を持つプログラムはほとんど存在しない。
また、健康改善効果が乏しく高コストなプログラムは資源の無駄である。多くの生活習慣改善プログラムが期待されたが、厳密な評価では健康指標や医療費、労働生産性に有意な効果が確認されなかった。たとえば、あるRCTでは職場における健康促進プログラムが18か月にわたり実施されたが、明確な健康改善や医療費削減は見られなかった。
予防が健康改善と医療費削減の両立を達成することは理論的には可能であるが、現時点ではそのような効果を持つ生活習慣改善プログラムのエビデンスは乏しい。にもかかわらず、多くの政府や保険者がコスト削減を期待して予防に多額の資金を投じており、このような過度な期待が逆に成果の出ない要因となっている可能性がある。
ゆえに、予防プログラムは「費用対効果」に基づいて評価されるべきであり、医療費を削減するかどうかに関わらず、健康改善がコストに見合うのであれば実施に値する。コストがマイナスである必要はない。
ニュースソース
Katherine Baicker(University of Chicago)and Amitabh Chandra(Harvard University): Can Prevention Save Money?
JAMA Health Forum. 2025;6(4):e251464. doi:10.1001/jamahealthforum.2025.1464